日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG27] 環境問題の現場におけるScientistsとStakeholdersとの協働

2016年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 102 (1F)

コンビーナ:*近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、木本 浩一(摂南大学・外国語学部)、手代木 功基(総合地球環境学研究所)、座長:近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

10:00 〜 10:15

[HCG27-05] 驚き、学び、励ます:サーヘル地域の砂漠化研究における研究者と調査対象者のかかわりから

*清水 貴夫1 (1.総合地球環境学研究所)

キーワード:エティックとエミック、科学知と在来知、砂漠化対処

私たちが研究者であれ、開発実務家であれ、私たち「先進国」の関与者が「途上国」携わるのは、技術や社会サービス、福祉の向上がその本質的な目的であると言えるだろう。本発表で挙げる「砂漠化」問題も、気候変動など自然変動要因による土壌劣化に起因する「砂漠化desertisation」と、人為的要因を包含する「砂漠化desertification」は明確に分けて考えられている。まず、本発表で提示する事例は、後者のDesertificationにまつわるものであることを述べておきたい。
この事例では、ニジェール、ブルキナファソのサーヘル地域で、砂漠化の代表的な現象である、水食予防と対処に関しての研究プロジェクトを実施した際の調査対象者(農業を営む人びと)と研究者(発表者)の関係性に着目していく。研究者は文化人類学者で、農業や気象、植生には全く知識はない。よって、他の研究者からこうした知識を学びつつ、フィールドにおいて人びとの知識や技術を学んでいく。この過程で、研究者が気づくのが、ローカルな知識や技術と科学知の間に大きな差がないこと、そして、ローカルな文脈で使われる知識や技術は固定的な「伝統」知/技術という言い方で表現されるような静態的なものではなく、研究者や支援活動従事者との間のインタラクションを包含した動態的な視点からとらえなおす必要があるということである。
以上の事例分析から、調査や支援の在り方を考えるとき、文化人類学で用いられる、エティック、エミックという概念がヒントになるだろう。これらは、構造言語学に起源をもつ語で、エティックは外部者からの立場で記述・分析をすること、エミックは内側からの視点を元に分析する姿勢のことをいう。ローカルなものに根差した知識や技術を構築していくことが科学や研究者の至上命題だとすれば、科学的な知の検証(エミック)とローカルな知からせり上げるエティックな研究方法がとられる必要があるだろう。こうした考察から研究や支援活動が教条主義から脱し、相対主義的なかかわりをもつ必要性があることを指摘していきたいと考えている。