17:15 〜 18:30
[HCG27-P01] 印旛沼流域水循環健全化を取り巻くトランスディシプリナリティー
キーワード:印旛沼流域水循環健全化、フューチャーアース、トランスディシプリナリティー、ステークホルダー
Future Earth(FE)の理念は科学者(Scientist)とStakeholderの協働によるTransdisciplinarityの実現と考えてよいだろう。その研究は問題解決型であり、研究の参加者は問題の解決という目的の達成を共通の目標として、協働を行うことになる。これが課題のみを共有して、各自の専門性の守備範囲内で論文を生産する従来型の研究とは異なる点である。
問題解決への道程に関しては異なる考え方がある。一つは、予測された未来に基づき、初期条件である現在を変える考え方であり、もう一つは、未来をよくするために現在をよくする、という考え方である。また、世界は一つと考えるか、世界は相互作用するたくさんの小さな地域から成り立つと考える立場がある。後者は、地域の問題に取り組み、地域を良くすることが世界が良くなることに繋がると考える地理学や社会学の考え方といえる。
近代化に伴う水域への汚染物質の流入による水質の悪化とそれに伴う富栄養化、生態系への影響、といった閉鎖性水域の水環境問題は世界各地で同様な背景のもとで発生している地球環境問題といえる。日本では沖積平野に大都市の立地が多いが、近傍には第四紀の海水準変動によって形成された浅い海跡湖があり、水資源として活用されるとともに、様々なセクターからの排水が水質汚染、富栄養化等の原因となっている地域的な特徴を有している。閉鎖性水域の水問題は解くべき課題の一つであり、科学者は現象理解の成果を、問題解決に活かさなければならない。(狭義の)科学者は従来この過程を人任せにしてきたといえる。それは“問題”は多様な要因が積分されて発現するため、解決には多様なセクターの関わりが必要であり、科学者の役割が相対化されることは現在の研究の評価基準では容認し難いことであるからであろう。問題の解決を共有したステークホルダーの集合の中で、科学者が役割を果たすことがTransdisciplinarityを実現し、Future Earthを成功に導くための重要な過程であると考えられる。
印旛沼は首都圏の人口密集地に位置する閉鎖性水域であり、千葉県北西部の上水、京葉工業地帯の工業用水を供給するとともに、流域の水田に潅漑用水を供給する千葉県の水瓶として機能している。しかし、その水質は上水を供給する湖沼としては全国でワースト1の記録を更新中である。この沼の水質を改善し、よりよい地域づくりを推進するために、千葉県は2001年に印旛沼流域水循環健全化会議を立ち上げた。2004年には「印旛沼流域水循環健全化行動計画」、2010年には「印旛沼流域水循環健全化計画」を策定した。この計画は2030年を目標年次にして、①良質な飲み水の源、②遊び、泳げる、③ふるさとの生き物をはぐくむ、④大雨でも安心できる、⑤人が集い、人と共生する-印旛沼・流域の実現を掲げている。その取り組みとして、雨水浸透、生活排水、農業、生態系、等の分野でワーキンググループを作って“みためし行動”を実施するとともに、わいわい会議、印旛沼流域・環境体験フェアといった市民との交流、市町連携活動等の様々な試みを行ってきた。
このような活動にも関わらず、沼の水質は一向に改善の兆しを見せていない。一方で多くの流域住民、上水の供給を受ける流域圏の住民は印旛沼との関係性を意識することは少ない。そこで、“楽しい”という感覚を共有し、目的の達成を共有する枠組みの中で、個人やグループが役割を果たしていることを“見える化”するために印旛沼流域圏交流会を結成し、“印旛沼流域・環境体験フェア”の運営に市民が主体的に参加することになった。この交流会は同じ目的の達成を共有する個人、団体、企業、行政、大学、等の様々な主体から構成されている。
これらの活動の中に科学者も参加しているが、印旛沼流域水循環健全化会議を巡るコミュニティーの目標は流域の水循環の健全化を通したよりよい地域つくりである。その達成を共有して協働の枠の中で科学者も役割を果たすという点が、Transdisciplinarityの一つのあり方であると考える。学会発表や論文は科学者自身の責務であるが、研究成果はコミュニティーに伝え、またコミュニティーからフィードバックを受け取ることにもなり、現場の知識、経験が科学者の普遍的な知識と融合し、問題解決に向けて前進することができる。現在は大学、研究機関の科学者もこの活動に参加し、成果を共有することに成功していると考えられ、Transdisciplinarityの一つの事例として報告する。ただし、目的の達成、水環境の改善と、よりよい地域づくりはもう少し先の課題としたい。
問題解決への道程に関しては異なる考え方がある。一つは、予測された未来に基づき、初期条件である現在を変える考え方であり、もう一つは、未来をよくするために現在をよくする、という考え方である。また、世界は一つと考えるか、世界は相互作用するたくさんの小さな地域から成り立つと考える立場がある。後者は、地域の問題に取り組み、地域を良くすることが世界が良くなることに繋がると考える地理学や社会学の考え方といえる。
近代化に伴う水域への汚染物質の流入による水質の悪化とそれに伴う富栄養化、生態系への影響、といった閉鎖性水域の水環境問題は世界各地で同様な背景のもとで発生している地球環境問題といえる。日本では沖積平野に大都市の立地が多いが、近傍には第四紀の海水準変動によって形成された浅い海跡湖があり、水資源として活用されるとともに、様々なセクターからの排水が水質汚染、富栄養化等の原因となっている地域的な特徴を有している。閉鎖性水域の水問題は解くべき課題の一つであり、科学者は現象理解の成果を、問題解決に活かさなければならない。(狭義の)科学者は従来この過程を人任せにしてきたといえる。それは“問題”は多様な要因が積分されて発現するため、解決には多様なセクターの関わりが必要であり、科学者の役割が相対化されることは現在の研究の評価基準では容認し難いことであるからであろう。問題の解決を共有したステークホルダーの集合の中で、科学者が役割を果たすことがTransdisciplinarityを実現し、Future Earthを成功に導くための重要な過程であると考えられる。
印旛沼は首都圏の人口密集地に位置する閉鎖性水域であり、千葉県北西部の上水、京葉工業地帯の工業用水を供給するとともに、流域の水田に潅漑用水を供給する千葉県の水瓶として機能している。しかし、その水質は上水を供給する湖沼としては全国でワースト1の記録を更新中である。この沼の水質を改善し、よりよい地域づくりを推進するために、千葉県は2001年に印旛沼流域水循環健全化会議を立ち上げた。2004年には「印旛沼流域水循環健全化行動計画」、2010年には「印旛沼流域水循環健全化計画」を策定した。この計画は2030年を目標年次にして、①良質な飲み水の源、②遊び、泳げる、③ふるさとの生き物をはぐくむ、④大雨でも安心できる、⑤人が集い、人と共生する-印旛沼・流域の実現を掲げている。その取り組みとして、雨水浸透、生活排水、農業、生態系、等の分野でワーキンググループを作って“みためし行動”を実施するとともに、わいわい会議、印旛沼流域・環境体験フェアといった市民との交流、市町連携活動等の様々な試みを行ってきた。
このような活動にも関わらず、沼の水質は一向に改善の兆しを見せていない。一方で多くの流域住民、上水の供給を受ける流域圏の住民は印旛沼との関係性を意識することは少ない。そこで、“楽しい”という感覚を共有し、目的の達成を共有する枠組みの中で、個人やグループが役割を果たしていることを“見える化”するために印旛沼流域圏交流会を結成し、“印旛沼流域・環境体験フェア”の運営に市民が主体的に参加することになった。この交流会は同じ目的の達成を共有する個人、団体、企業、行政、大学、等の様々な主体から構成されている。
これらの活動の中に科学者も参加しているが、印旛沼流域水循環健全化会議を巡るコミュニティーの目標は流域の水循環の健全化を通したよりよい地域つくりである。その達成を共有して協働の枠の中で科学者も役割を果たすという点が、Transdisciplinarityの一つのあり方であると考える。学会発表や論文は科学者自身の責務であるが、研究成果はコミュニティーに伝え、またコミュニティーからフィードバックを受け取ることにもなり、現場の知識、経験が科学者の普遍的な知識と融合し、問題解決に向けて前進することができる。現在は大学、研究機関の科学者もこの活動に参加し、成果を共有することに成功していると考えられ、Transdisciplinarityの一つの事例として報告する。ただし、目的の達成、水環境の改善と、よりよい地域づくりはもう少し先の課題としたい。