日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG27] 環境問題の現場におけるScientistsとStakeholdersとの協働

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、木本 浩一(摂南大学・外国語学部)、手代木 功基(総合地球環境学研究所)

17:15 〜 18:30

[HCG27-P06] 科学者と地域のステークホルダーとの間にみられる考え方のずれ
-白山手取川ジオパークの現場から-

*中村 真介1 (1.白山手取川ジオパーク推進協議会)

キーワード:科学者、自治体職員、一般市民、ジオパーク、協働

はじめに
近年、科学者の社会貢献が強く謳われており、科学者が地域のステークホルダーと協働する機会が増えている。中でも、地方自治体を中心に活動することの多いジオパークは、ジオパーク専門員と呼ばれる科学者の実務スタッフを組織内部に抱え込んでおり、科学と社会の接点のパイオニアともいえる。ジオパーク専門員の多くは、自治体職員と日常的に机を並べており、また、ガイドをはじめとする一般市民との協働の機会も多い。しかし、科学者とこれら地域のステークホルダーとの間には考え方にずれがあり、協働に際してはそのずれに起因する様々な葛藤や不和が生じている。
本稿では、著者がジオパーク専門員として働いている白山手取川ジオパークの現場を事例に、特にジオツアーに着目して1.自治体職員との協働、2.一般市民との協働の実態を報告し、科学者と地域のステークホルダーとの協働における課題を抽出する。
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科学者と自治体職員とのずれ
ジオツーリズムはジオパーク活動の柱の1つであり、多くのジオパークではガイドを養成し、ジオツアーの催行に努めている。ジオツアーは、地域外からのいわば「外貨」獲得の手段として期待が寄せられており、観光振興が叫ばれる中、外部からの誘客にねらいが置かれている。しかしその集客方法をみてみると、決して外部からの誘客に有効とは言い難いのが実情である。
白山手取川ジオパークでは集客方法の中心が紙媒体のチラシであり、少し前まで、そのチラシの大半は地域内に向けて配布されていた。ジオパークの多くは自治体を中心に運営されており、自治体の連携相手は多くが地域内部に向いている。公民館であったり、道の駅であったり、宿泊施設・観光施設であったりと、地域内ならば比較的容易に連携関係を築きやすいのだが、地域外となると他の自治体の管轄下に入るため、自治体職員には抵抗感が強い。
しかし客観的に考えれば、地域外からの集客を目指すのであれば配布先の多くは地域外に向かうべきであり、これでは目的と方法が一致していないことになる。その背景として、他自治体の管轄に手を出しにくい抵抗感に加え、自治体職員には、科学者のように研究発表や論文執筆の過程で目的-方法-結果-考察のサイクルを訓練する機会が少ないことが指摘できるだろう。
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科学者と一般市民とのずれ
ジオパークでは一般市民をガイドとして養成しているが、多くの場合、ガイドの年齢層は高齢者に偏っている。高齢者の多くは年金等で生計が既に成り立っているため、ガイド収入を得ることにさほど熱心ではなく、ボランティア意識が強い傾向にある。
2015年度の白山手取川ジオパークのジオツアーにおいて、短大生によるモニタリング調査を実施したところ、参加した学生からは、「里山に行くツアーで服装などの連絡が何もなく、行ったら自分だけ街の服装をしていて浮いてしまった」「ガイドが特定の参加者にしか解説していない」など、多くの課題が浮かび上がった。
これらのガイドの行動は、決して悪意がある訳ではなく、ただ自己の「常識」に従っただけである。それは一言で形容すれば、「親戚の子を案内する」ものともいえるだろう。しかし、ジオツアーで案内しているのは「親戚の子」ではなく対価をいただく「お客様」であり、「お客様」の「常識」に一定程度合わせる必要がある。
科学者は学会発表等を通じて他者の意見を聴き、自身を客観視する機会があるが、一般市民にとってそのような機会は決して多くない。長年かけて培ってきた「常識」を崩すことは容易ではなく、ガイドが自身を客観視するためには、時間をかけて対話を繰り返すほかないのが実情である。
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結びに
科学者は、研究発表や論文執筆の過程で目的-方法-結果-考察のサイクルを訓練しており、また他者の意見を聴いて自身を客観視する場面に恵まれている。その意味では、学問分野の違いこそあれ、みな論理的思考のスペシャリストであるといってもいいだろう。一方で、自治体職員や一般市民など、地域のステークホルダーにはそのような機会は乏しい。科学者が地域のステークホルダーと協働していくためには、相手の考え方をよく理解し、相手が適応しやすいアプローチをとっていく必要があるだろう。