日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG27] 環境問題の現場におけるScientistsとStakeholdersとの協働

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、木本 浩一(摂南大学・外国語学部)、手代木 功基(総合地球環境学研究所)

17:15 〜 18:30

[HCG27-P07] 洪水-干ばつ対応農法の提案に向けた農家と研究者の協働

*藤岡 悠一郎1西川 芳昭2檜山 哲哉3水落 裕樹4Awala Simon5Mwandemele Osmund5飯嶋 盛雄6 (1.東北大学学際科学フロンティア研究所、2.龍谷大学経済学部、3.名古屋大学宇宙地球環境研究所、4.筑波大学大学院生命環境科学研究科、5.ナミビア大学、6.近畿大学農学部)

キーワード:参加型アプローチ、混作、在来知、湿地利用、乾燥地

1. はじめに
地域の環境問題に対応しつつ農村の持続的開発を進めていく際、地域の自然環境や生業に関わる情報をステークホルダーである住民と研究者がいかに共有し、新たな資源利用の枠組みを創りだしていくのかという点は、参加型アプローチが主流になった現在でも主要な課題の一つである。著者らは、2012年から2017年にかけて、地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)「半乾燥地の水環境保全を目指した洪水-干ばつ対応農法の提案」プロジェクトをナミビア共和国北部で運営してきた。このプロジェクトは、半乾燥地域に出現する季節湿地に注目し、あるがままの不安定な水環境を保全しながらも、洪水や干ばつ年でも常に一定以上の穀物生産が維持されるような新しい栽培技術(イネ-雑穀混作技術)を考案することを目的としている。本発表では、同プロジェクトの過程で明らかになってきた、湿地の自然環境や混作に関する住民と研究者との認識の差異に着目し、科学的な知見と住民の認識が参加型アプローチのなかでどのように融合される可能性があり、課題があるのかを検討する。
2. 方法
ナミビア北部に位置する3村において現地調査を実施し、季節湿地の土壌や植生、降水量、水位変動などの自然環境に関するデータを取得した。同時に、敷地内に季節湿地を有する農家を対象に、世帯構成員が湿地環境をどのように認識しているのかを明らかにするため、農家の家長もしくは成人世帯構成員に聞き取り調査を行った。また、農家が有する混作に関する在来知をインタビューによって把握するとともに、プロジェクトが提案する新たな混作技術に関するワークショップの場における住民の発言を記録し、その後の彼らの農業実践を観察した。
3. 結果と考察
(1) 多様な季節湿地:ナミビア北部はクベライ水系に位置し、季節湿地帯が広がっている。本地域には季節的に水がたまる池沼(現地語でオンドンベ)が多数分布しているが、調査の結果、オンドンベには植生や土壌環境の異なる多様なタイプがあることが明らかになった。
(2) 季節湿地に対する住民の認識:本地域では降水量の経年変動が大きく、湿地の水環境も年々大きく変化する。現地の人々は、多数分布するオンドンベに関して、水位の変動パターンの差異や植生の違いを認識していた。そうした湿地間の差異は、湿地の呼称の違いとして分類されているものもみられたが、名称の違いとしては現れない環境の違いが人々に認識されていた。
(3) 混作農法の導入と新たな在来知の創出:これまで、本地域では季節湿地の農業への利用は行われてこなかった。プロジェクトがイネ-雑穀混作技術を導入する過程で、湿地環境に対する人々の認識にも変化が生じ、新たな在来知が生みだされていた。
(4) 混作に対する認識の差異:プロジェクトの混作に関する説明と農家の認識、実際の作付様式との間には、様々な要因による差異が生じていた。これは、研究者側が当初想定していた湿地環境や在来農法に関する知見と住民の認識との間にずれがあったことを意味するが、環境に適応した新たな農法を創出していくためには、研究者側が認識のずれが生じる要因を理解し、プロジェクトの枠組みを柔軟に修正していくことが求められる。

付記 本研究は、JST/JICAによる地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)「半乾燥地の水環境保全を目指した洪水-干ばつ対応農法の提案」(代表 飯嶋盛雄)の一環として行なわれている。