日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG28] 閉鎖生態系における生物のシステムを介した物質循環

2016年5月22日(日) 15:30 〜 16:50 A07 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*富田ー横谷 香織(筑波大学大学院生命環境科学研究科)、座長:富田ー横谷 香織(筑波大学大学院生命環境科学研究科)

15:45 〜 16:05

[HCG28-02] 宇宙閉鎖生態系における藍藻の利用

★招待講演

*大森 正之1 (1.中央大学理工学部生命科学科)

キーワード:藍藻、宇宙実験、光合成

藍藻(シアノバクテリア)は、地球上で最初に太陽光エネルギーを利用して水を分解し、得られた還元力でCO2を有機物に変えることに成功した生物である。その化学反応の過程で発生したO2は、細胞の外部に放出され、それまで還元的であった地球の大気環境を一変させ、現在の酸化的大気環境を形成する要因となった。藍藻は、その後の地球の環境変動を乗り越え、現在でも陸圏、水圏を問わず地球上のすべての環境下で生息し、地球環境の維持に多大な貢献をしている。また、古くから人々の食用にも利用されている。藍藻の一種スピルリナは、現在補助食品として市販されており、栄養価の高さが宣伝されている。藍藻は、人類が宇宙にその生息域を拡大しようとする時、利用可能な重要な生物である。
宇宙における閉鎖生態系としては、今地上400㎞を飛行している国際宇宙ステーションがある。宇宙ステーションと聞くと、人間と機械だけの閉鎖空間をイメージする人が多いかも知れないが、実際は無数の微生物を包含する立派な閉鎖生態系である。人間一人の腸内には90兆にもおよぶバクテリアが生息していると言われており、宇宙船内には宇宙飛行士によって持ち込まれた多くの微生物が生息しており、船内の環境変化に対応して消長を繰り返している。しかし、藍藻がその中に含まれているという報告はない。光合成緑色微生物の宇宙での培養は環境の維持の面からも十分に意義がある。
スピルリナ(Arthrospira platensis)は、らせん状の糸状体を作る藍藻で、アルカリ耐性、塩耐性を示し、培養中に他のバクテリアの混入を受けにくい。この藍藻を用いて、宇宙での光合成活性を測定する実験が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の日本―インド回収衛星搭載微生物培養実験として計画された。宇宙での培養は、JAXAが作製した宇宙実験用完全自動培養装置を用いることにした。本装置は、光照明装置、送液装置、温度および圧力測定装置等を備え、全装置の大きさはD-20cm、W-20cm、H-10cmで、アルミニウムをくり抜いた箱に納められた。スピルリナは、5 atom%H218O、4 atom%NaH13CO3を含む培地に懸濁し、10mLずつを6個の透明プラスチックバッグに分注した。6個のバッグはそれぞれ白色LEDパネルの間に設置され、20μmoles m-2sec-1の照度で照明された。培養温度は28℃に保たれた。照明開始後一定時間おきに、自動的に10mLずつのメタノールをそれぞれのバッグにポンプ挿入して、光合成反応を停止させた。ただし、バッグの一つは反応を停止せずに、実験終了後、細胞の増殖の測定に用いた。細胞の増殖は吸光度、クロロフィル量、タンパク質量の増加より評価した。また、光合成活性については、O2発生量と酸素の同位体比を諏訪らが開発したGC/MS法により測定した。 スピルリナ細胞は、6日間の培養により、吸光度にして約5倍、クロロフィル量にして約9倍、タンパク質量にして約9倍に増加した。O2の発生量は、プラスチックバッグからの定量的なサンプリングが難しく、測定値は大きくばらついた。しかしながら、32O234O2の測定結果から、18Oを含む酸素ガスは時間とともに増加していることが高い精度で確認された。すなわち実験にH218Oを利用することの意義が確認された。CO2の固定については、バッグ全体の有機炭素の増加量はサンプリングの難しさから、測定値はばらついたが、細胞中の13Cは高い精度で直線的な増加が確認され、活性の測定には同位体の利用が有効であることが証明された。
和名ではイシクラゲとよばれているNostoc commune は、陸棲であるため乾燥や低温に強く、窒素固定能を持つため窒素肥料の供給も必要ない。地球上では砂漠緑化における利用が考えられており、火星での農業を考えるとき、作物を育てる土壌の創生には最適と思われる。そこで、陸棲藍藻の光合成活性の測定を試みた。まず、乾燥させたNostoc communeに1 日給水した後、ガラスバイアルまたはプラスチックバッグに入れ、気相を窒素ガスに置換した。また、光合成の基質としてCO2を100~500μL加えた。細胞を一定時間白色光または波長660nmのLED光を用いて照射し、GC/MSによって明暗におけるCO2量の増減とO2量の増減を測定した。その結果、光照射下では、気相のCO2は継時的に減少し、O2は継時的に増加した。暗所ではCO2の増加とO2の減少が観察された。しかし測定値にばらつきが大きく、サンプリング時における大気の混入が大きな問題となった。安定同位体の18O-H2Oおよび13Cを用いることで、より正確な測定が可能になると思われる。