日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG28] 閉鎖生態系における生物のシステムを介した物質循環

2016年5月22日(日) 15:30 〜 16:50 A07 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*富田ー横谷 香織(筑波大学大学院生命環境科学研究科)、座長:富田ー横谷 香織(筑波大学大学院生命環境科学研究科)

16:35 〜 16:50

[HCG28-05] 閉鎖型生命維持システムの最適設計を目指したECLSSおよび微小生態系に関する研究

*寺尾 卓真広崎 朋史1桜井 誠人2 (1.宇宙システム開発株式会社、2.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:生命維持システム、閉鎖系、生態系、マイクロコズム

人は宇宙で生きるために、人間の生存しうる環境を作り出さなくてはならない。その環境を作り出すシステムがECLSS ((Environmental Control and Life Support System)である。ECLSSはCO2濃度、O2濃度、湿度などをコントロールし、また人体や機器類から発生する有害物質を除去する。現在地上400kmのISS (International Space Station)では、各国のECLSSが稼働し、6名程度が活動できる環境を生み出している。現在のISSでは、地球からの物資の補給を前提とし、一部の物質を再利用している。完全な再利用可能となるシステムは、開発されていない。月、火星での有人宇宙活動が期待される近年、いよいよ物質再生率の高いECLSSの開発が望まれる。完全な物質循環の研究を目指した、人間の作り出した閉鎖生態系にバイオスフィア2やCEEF (Closed Ecology Experiment Facilities)がある。どちらも数名の人間を生かすために広大な土地や処理装置を必要とした。部分再生のISSのECLSSは比較的コンパクトであるが、物質を完全に再利用するとなると途端にシステムは複雑化し、困難を極める。
マクロに見れば、地球は太陽のエネルギーを源に動作する最大の閉鎖系である。地球内で物質は循環し、そこには多くの生命が存在している。それらはありとあらゆる乱れに耐えながら、絶滅していく種も存在するが、一人の人間の一生よりはるかに長い期間で共存している。しかも、何かがコントロールしているかのように、自然と個体数は収束していったり、振動したりする。自然生態系は多くの側面で非常に安定的である。この自立安定性は様々な要因によってもたらされることが研究されている。しかし、この性質を具体的にシステムに組み込む方法は、明らかではない。このシステムの自立安定の機能をECLSSに搭載することは、ECLSS開発者の一つの普遍的な夢である。
我々は、完全に物質循環可能なECLSSすなわちCELSS (Closed Ecological Life Support Systems)とはどのようなシステムが実現可能であるかを提案するために、現実的なECLSS解析と生態系の機能の解析という2方向のアプローチを行う。ECLSS解析では、現在の技術を想定しECLSSを構築した場合、どの技術がボトルネックとなっているのか、システムへの感度が高いのかなどを複数の評価項目を用いて調査する。また同時にECLSSでの実際のトラブルと実生態系の乱れとの類似点などを学ぶ。生態系解析では、最小限の生態系microcosmをモデル化し、系の乱れに対する復元力はどのように起きるかを解析し、そのメカニズムの解明を図る。そして、自然生態系の自立安定機能はどのように具体的な人工のシステムに適用できるのかを検討する。最終目標は、生態系解析から得られたシステムの自立安定機能をCELSSに適用し、高い安定性を有したシステムの提案、そのための技術的課題の提案を行いたい。現在の我々の研究の進度は、各アプローチの解析に留まっている。本発表では、それらの紹介を行う。