日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS17] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2016年5月24日(火) 13:45 〜 15:15 202 (2F)

コンビーナ:*千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)

14:30 〜 14:45

[HDS17-04] 震生湖をつくった地すべりは神奈川から東京に広く分布する東京軽石層内にすべり面をもっていた

*千木良 雅弘1古木 宏和2笠間 友博3鈴木 毅彦4 (1.京都大学防災研究所、2.日本工営株式会社、3.神奈川県立 生命の星・地球博物館、4.首都大学東京)

キーワード:降下火砕物、地震、地すべり、東京軽石層

1923年9月1日の関東地震は、特に神奈川県西部に数多くの地崩れを発生した。現在、秦野市にはこの時の地すべりによって形成された震生湖が残存し、市民の憩いの場になっている。震生湖を形成した地すべりは、寺田・宮部 (1932)によって形が測量され、記録に残されている。しかしながら、その内部構造は全くわかっていなかった。我々は、現地の地形、特に地すべりの滑落崖と側方崖が、寺田・宮部(1932)の測量図と大きく変わっていないことを確認し、地すべりの右側方崖から20m離れた位置で2本のボーリング孔(各約30m長)を斜面の傾斜方向に並べて掘削した。その結果、および、地すべり地周辺の地表地質踏査の結果から、震生湖地すべりが地表から約17mの深さにある東京軽石層にあると判断できた。
2本のボーリング孔の孔口は標高差約8mで配置され、高標高部のボーリング孔では、約17mまで褐色火山灰土、ここで1.3mの厚さの東京軽石層(Hk-TP、以下TP)に遭遇し、その下位1.4m下に三浦軽石層(Hk-MP、以下MP)が確認された。低標高部のボーリング孔では、10mから17mまで軽石流(Hk-T(pfl)、以下TPfl)、その下に1.9mの厚さのTP、さらにその下位にMPが確認された。これらの情報から、断面図上で東京軽石層のトレースを描くと、斜面にほぼ平行で、滑落崖に漸近する形態となった。さらに、天然ダムの下流側の市木沢では、地すべり土塊の最下部にTP,TPflが巻き込まれていることが確認された。ボーリング孔および地すべりに巻き込まれたTPおよびTPflの軽石は風化して軟質であるが、市木沢床に露出するTPとTPflの軽石は新鮮で硬質である。
震生湖周囲の航空レーザー計測データによれば、震生湖地すべりよりもややスケールは小さいが、平板状の地すべり跡が多数認められた。TPの露頭分布からみて、いずれもTPにすべり面を持ち、地すべり前にTPが斜面下部で下部切断されていたと考えて矛盾がない。
TPは、6万年から6万5千年前に箱根火山から噴出したもので(町田・新井,2003;笠間・山下, 2008; 町田・森山, 1968)、神奈川から東京南西部の広い範囲に、斜面にほぼ平行に分布している。そして、この層の上には新期ロームが厚く堆積している。これらの層が斜面下部で切断されているような個所では、将来の大地震時に崩壊性の地すべりが発生する可能性がある。
本研究には、「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の特別事業費を使用した。

笠間友博, 山下浩之, 2008. いわゆる「東京軽石層」について. 神奈川博調査研報(自然) 13, 91-110
寺田寅彦, 宮部直巳, 1932. 秦野における山崩れ. 地震研究所彙報 10, 192-199.
町田洋, 新井房夫, 1992. 火山灰アトラス-日本列島とその周辺. 東京大学出版会, 東京.
町田洋, 森山昭雄, 1968. 大磯丘陵のtephrochronologyとそれにもとづく富士および箱根火山の活動史. 地理学評論 41, 241-257.