日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS17] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2016年5月24日(火) 13:45 〜 15:15 202 (2F)

コンビーナ:*千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)

14:45 〜 15:00

[HDS17-05] 阿蘇火山周辺の急傾斜地におけるテフラ層厚分布の特徴とその成因

*木村 誇1林 信太郎2後藤 聡3佐藤 剛4若井 明彦5土志田 正二6檜垣 大助7 (1.日本地すべり学会、2.秋田大学、3.山梨大学、4.帝京平成大学、5.群馬大学、6.消防研究センター、7.弘前大学)

キーワード:阿蘇火山、テフラ被覆斜面、アイソパックマップ、層厚分布、表層崩壊

平成24(2012)年7月九州北部豪雨により,阿蘇火山北部のテフラに覆われた急傾斜地で多数の表層崩壊が発生し,甚大な土砂災害を引き起こした。阿蘇火山周辺地域では,豪雨による表層崩壊の群発がおよそ10年おき(最近30年間では,1990年,2001年,2012年)に繰り返し発生している。このような土砂災害を防ぐためには,活火山周辺の急傾斜地において崩壊予備物質となるテフラの層厚分布を把握する必要がある。
そこで,約3,600年前の噴火時に降下した往生岳スコリア(以下,OjSと表記)より上位にあるテフラ累層(ロームやクロボクといった火山灰土壌を含む)の等層厚線図(宮縁ほか,2004)をもとに,スプライン法を用いた空間補間によって阿蘇火山周辺地域の層厚分布を推定し,中央火口丘斜面の高岳地区およびカルデラ内壁斜面の妻子ヶ鼻地区で実測した層厚と比較した。さらに,層厚と斜面地形(傾斜角および曲率)との関係を解析して,阿蘇火山周辺の急傾斜地における現在のテフラ層厚分布の特徴とその成因を考察した。
等層厚線図から得た推定層厚をOjS層形成以降に降下したテフラの総量と見なすと,推定層厚と実測層厚の比は過去約3,600年の期間におけるテフラの残存率と考えることができる。テフラの残存率は高岳地区で0.25~0.31(25~31%),妻子ヶ鼻地区で0.12~0.22(12~22%)となった(図1)。テフラの残存率と斜面地形との相関を調べたところ(図2),傾斜角との間には有意な相関が認められなかった一方で(相関係数r:-0.35,p値:0.29),曲率との間には有意な負の相関が認められた(相関係数r:-0.60,p値:0.05)。
以上の結果より,阿蘇山周辺の急傾斜地におけるテフラの平均残存率(±標準偏差)は0.22±0.06(22±6%)となり,過去約3,600年間に降下したテフラのおよそ70~90%がすでに侵食されていることが示された。また,テフラの残存率と斜面の曲率との間に負の相関があり,凸地ほどテフラが蓄積されにくい傾向にあることが示された。
現地の露頭観察において,OjS層は乱れたブロック状の二次堆積物として残存している場合が多いこと,約1,500年前の噴火時に降下したスコリア(中岳N2スコリア)は連続性よく堆積している一方で,その上下のクロボク/ローム土層が薄く連続性に乏しいことから,約3,600年前,約3,600~1,500年前の期間の中・後期,約1,500年前~現在までの期間の中期に地表付近の土層が表層崩壊による削剥を受けたことで,現在のような層厚分布が形成されたものと考えられる。