日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS17] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)

17:15 〜 18:30

[HDS17-P03] 巨摩山地・櫛形山東麓における更新世後期の地すべり性古湖沼

*太田 凌嘉1苅谷 愛彦2 (1.専修大学・学部生、2.専修大学)

キーワード:テフロクロノロジー、御岳第一テフラ、湖成堆積物、岩盤重力変形

甲府盆地西方の櫛形山(2052 m)は、南部フォッサマグナの新第三系(主に巨摩層群の火山岩・泥岩)からなる巨摩山地の最高点である。櫛形山と、甲府盆地の最低地点との水平距離は約16 kmで、比高は約1.5 kmに達するため櫛形山東面では急斜面が卓越する。しかし標高950 m以低では段丘状の緩斜面が広がり、南アルプス市高尾から富士川町岩下にかけて、南北走向を示す長さ約5 kmの地溝状凹地が発達する。この凹地の一部を人工湛水させたものが北伊奈ヶ湖や南伊奈ヶ湖である。この凹地の一部には、少なくとも最終間氷期から最終氷期初頭にかけて湖沼が存在していた。湖沼の成立・消滅には櫛形山東面の大規模な地すべりが関与していた可能性がある。
凹地北部の高尾では、標高840 m前後にシルト質の湖成堆積物が分布する。また同地の標高855 m付近には土石流堆積物が分布し、厚さ1.0 m前後の白色軽石層を挟む。高尾の南の立沼と北伊奈ヶ湖の中間地点では、標高840-865 m前後にシルトと砂礫からなる厚い湖成堆積物が分布し、そのうち標高860 m付近に高尾と同じ厚さ0.5 m前後の白色軽石層を挟む。さらに、立沼の標高880 m前後にもシルト質・泥炭質の湖成堆積物が分布し、同じ白色軽石層を挟む。層厚や鉱物組成、火山ガラス及び角閃石の屈折率特性から、これらの軽石層は全て御岳第1(On-Pm1;95 ka)に同定される。
清水ら(2001;防災科研地すべり図)や長谷川ら(2014;応用地質学会講演論集)が指摘するように、櫛形山周辺には地すべり地が卓越する。筆者らも空中写真やLiDAR-DEM段彩傾斜量図・陰影図の判読及び現地踏査を行い、清水ら(2001)が認識した以上に多くの地すべり地と岩盤の重力変形域を櫛形山一帯で確認した。それにもとづくと、高尾や立沼は複数の巨大地すべり移動体の上に位置し、これらの移動体は二次地すべりにより随所で開析されている。これらの点から、上記の湖成堆積物は巨大地すべり移動体の凹地や平坦面が湛水して生じたと考えられる。ただし、湖成堆積物の高度が標高840 m前後と同880 m前後に二分する事実は、元来一連だった湖成堆積物が後の斜面変動で高度分化を起こした可能性のほか、高度の異なる複数の湖沼が当初から同時に成立していたことも想起させる。高尾、立沼及び北伊奈ヶ湖-立沼中間地点の3地点は、いずれも異なる地すべり移動体上にあるからである。一方、古湖沼は二次地すべりや谷頭侵食による解体、後背斜面からの岩屑供給による埋積で完全に消滅した。ただし、その時期について具体的な資料はまだない。なお、櫛形山東面山腹に直線的な凹地が連続することと、同地では現在も含めて地すべり活動が活発だったことの間には何らかの地質学的関係があると思われるが、この点は検討中である。