日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS19] 津波とその予測

2016年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 201A (2F)

コンビーナ:*行谷 佑一(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、今井 健太郎(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、前田 拓人(東京大学地震研究所)

09:30 〜 09:45

[HDS19-03] 波源推定に基づく津波即時予測手法の系統的な予測性能評価とリアルタイム精度判定指標の開発

*対馬 弘晃1山本 剛靖1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:津波警報、津波即時予測、沖合津波観測、近地津波、災害軽減、逆問題

1.はじめに
2011年東北地方太平洋沖地震の発生後,日本周辺では沖合津波観測網の増強が急速に進められており,その津波観測データから沿岸の津波を即時に予測するための手法が,多くの研究者によって精力的に開発されている.我々は,沖合津波波形データの逐次逆解析によって初期水位分布をリアルタイムに推定して,沿岸の津波波形を予測する手法tFISHを開発し,その実用化に向けた取り組みを進めている.tFISHによる津波予測の精度は,波源と津波観測点の位置関係に依存する (Tsushima et al., 2009).そのため,南海トラフ沿いやS-net稼働前の日本海溝沿いのように,沖合観測点配置に空間的な偏りがあると,こうした予測精度の波源位置への依存性が強くなると予想される.また,それに伴って,高信頼度の警報更新に寄与する高精度な予測結果が得られるタイミングも,波源位置によって異なると考えられる.本研究では,波源位置を系統的に変えながら津波即時予測実験を行い,波源位置がtFISHの予測性能に与える影響を系統的に調べる.また,予測結果を警報更新に円滑に活用できるようにするため,予測精度が向上するタイミングをリアルタイムに判断するための指標の開発を行う.

2.数値実験
数値実験では,まず断層運動を仮定し,それによる初期水位分布を求め,津波伝播計算によって沖合・沿岸観測点での津波波形を計算し,それらを模擬的な観測データとみなす.次に,沖合の模擬観測波形にtFISHを適用して津波予測計算を行う.そして,沿岸における観測波高と予測波高の比較に基づいて,予測精度を評価する.
ここでは,択捉島沖から房総半島沖にかけての千島・日本海溝沿いの地震発生域に,Mw8.1の均質すべりのプレート境界地震13イベントを仮定した.断層パラメータはGica et al. (2008)を参考に設定し,津波伝播はJAGURS (Baba et al., 2015)を用いて線形長波式を差分法で解くことで計算した.予測計算は,地震発生後10分から50分まで10分おきに実施した.波形逆解析で用いる沖合津波観測点の配置は,東北沖地震発生時,S-net稼働後の計2つの場合を仮定した.予測波形合成では,地震発生から3時間後までの波形を計算した.予測精度の評価は,北海道から関東地方にかけてのForecast Points (FP: 気象庁が津波予測で用いる沖合の仮想点)における最大津波高を,気象庁が発表する予想される津波の高さの区分(津波注意報,津波警報,大津波警報3段階の計5段階.ここではグレードと呼ぶ)に換算し,観測と予測を比較することで行った.

3.予測精度の系統的な評価
まず,沖合で津波が十分観測された後にどのくらいまで予測精度が向上するか(予測精度の最終値)を把握するため,地震発生後50分の結果に着目する.東北沖地震時の沖合観測点配置の場合,すべてのイベントについて全FPでのグレードが誤差±1の範囲に収まり,なかでも,沖合観測点密度の高い海域で発生する津波については,グレードの適中数が増加する傾向がみられた.また,グレードの予測誤差のずれ方を細かく見ると,過小評価になる傾向が強い.これは,tFISHの波形逆解析で課している空間的な滑らかさの拘束条件に起因するものと考えられる.一方で,S-net配置で予測を行うと,過小評価の傾向が改善され,グレードの適中数が大幅に増加した.次に,予測精度が最終値に達するタイミングに着目する.波源がケーブル式海底水圧計の付近にあれば地震発生後20分で精度が最終値に達することもあるが,30分以上かかるイベントも多数みられ,地震発生後10分などの早期段階においては,グレードにして2段階も過小評価になることもあった.他方,S-net稼働後の配置を予測に使うと,地震発生後10分で予測精度が最終値に達することがわかった.

4.リアルタイム精度判断指標の開発
前節の数値実験においては,予測結果が最終解に達して精度が頭打ちになるタイミングは,全時刻(ここでは地震発生後50分まで)の結果を俯瞰することで,容易に判断できる.しかし,迅速さが重要な実際の津波の予測においては,各時刻に得られる予測結果が警報更新に活用するにふさわしい精度を有しているかどうかを,リアルタイムに判断する必要がある.それを支援する判断指標の一つとして,ここでは「現時点の解析で得られた予測波高と,一つ前の時点の予測波高との差」を考える.波源を推定するのに十分な観測データが得られれば,それ以降は,前時点との予測結果がほとんど変わらなくなり,指標値が小さくなると期待される.この指標を数値実験に適用した結果,予測値が最終解に達するに従い,指標値が減少する傾向がみられ,リアルタイム精度判断指標として機能しうることがわかった.一方で,この指標だと,実際に予測精度が高くなっても,それを判断できるのは次の予測解析のタイミングになるため,迅速性の観点では必ずしも十全ではない.今後は,この点を補足できるようにするため,経験ベイズ法(例えば,高川・富田,2015)等を用いた別の指標の開発も進める必要がある.