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[HDS19-04] 海底水圧記録のデータ同化に基づく津波波高と地殻変動の分離の試み
キーワード:津波、即時予測、データ同化、海底水圧計、地殻変動
はじめに
沿岸の稠密な津波海底記録を数値シミュレーションに逐次的に同化することで,初期条件である震源での破壊やそれに伴う初期水位でなく,現時刻の津波波動場そのものを直接推定することが可能であることが示されている.このデータ同化による方法は,震源での断層すべり分布推定に伴う不確実性を避けられ,また地震動にも依存しないため津波地震や遠地地震のような近傍地震観測でトリガーされにくい津波にも対応できるなど,津波の常時監視や即時予測に適した側面がある.しかし,現在の深海における多くの津波観測は海底水圧計によるものであり,地震の断層運動に伴う地殻変動が,その直上の観測点において津波波高に対する観測オフセットになってしまう.これは多くの津波即時予測手法について共通の問題であり,データ同化による推定も例外ではなかった.特に地震直後においてこの問題は深刻で,津波が震源断層域から十分に離れてからでないと即時予測への利用が困難であった.本研究では,データ同化による津波即時推定をさらに進め,海底水圧記録のみから津波波高と海底地殻変動成分とを近似的に分離する方法について検討した.
波動方程式に現れる海底水圧観測の効果
線形長波近似の下で,海底水圧から推定した津波波高(水圧波高)を用いることによる影響を考察した.海底水圧計では,真の津波波高と海底地殻変動の差が観測される.一方で線形長波の方程式に従うべきであるのは真の津波波高である.海底地殻変動は断層運動のような外的な要因によって定まる境界条件であることに注意すると,水圧波高は地殻変動に伴う項を見かけの非斉次項として持つ波動方程式に従うことがわかる.この非斉次項の存在が,データ同化において津波推定のオフセットを生じていた原因であった.地震断層破壊後には地殻変動は時間変化しないため,少なくとも破壊終了後の地震波S波到達後は,その地殻変動に伴う非斉次項の中にに現れる時間微分項は0とみなすことができる.一方,非斉次項の空間微分項は時間が経っても有限の値を持ち続けてしまうため,特に影響が大きい.
データ同化と逐次的波動方程式残差モデリング
海底水圧観測記録から真の津波波高と海底地殻変動を分離推定するために,データ同化に基づく2段階の推定法を考案した.まず,データ同化により海底水圧記録を津波の方程式に同化する.具体的には,既存の津波波動場推定値より1離散時間ステップ先の数値予測を行い,その観測点における観測記録とを比較する.そして,予測値と観測記録との残差を元に,その周辺地点の津波波高振幅を最適内挿法によって修正する.この手続きを毎離散時間ステップ繰り返すことにより,記録にシミュレーションモデルを同化させていく.
圧力波高を用いるため,同化された津波波高には必然的に地殻変動の影響が混入している.そこで,同化された津波波動場の時間及び空間の2階微分から波動方程式の斉次項を数値的に評価し,その残差として波動方程式の非斉次項振幅を抽出する.地殻変動の2階の時間微分項を無視すると残差項はLaplace方程式に従うので,これを数値的に解くことで地殻変動成分が得られる.推定された地殻変動成分をデータ同化の結果から差し引くことで,真の波高の推定値が得られ,津波波高振幅と地殻変動とを分離することができる.さらに,推定された真の津波波高振幅の空間微分から,真の流速分布を再推定することもできる.
数値実験
単純な1次元津波モデルを用いて,提案手法のデータ同化数値実験を行った.一様水深3000 mの媒質に観測点を30 km毎に配置し,そこでのシミュレーション結果を仮想観測データとした.その離散的な観測記録のみから,毎秒の津波波高と流速の空間分布を逐次的に推定した.第1段階である圧力波高のデータ同化においては,初期波源近傍から十分に広がるまでは津波が検知できない.また,津波が伝播した後には震源近傍にオフセットが残り,それが推定された流速の人為的な増大を招く様子が確認された.しかし,今回提案した2段階の分離結果ではこれらの問題が解消した.第1段階のデータ同化結果よりやや推定誤差が多くなるものの,真の津波と地殻変動とが海底水圧記録のみから分離できている様子が確認された.特に,初期水位の上昇が始まった直後から,その変動が地殻変動として推定されていることは特筆に値する.地震動や海底変化の動的な項を無視した近似の下ではあるが,津波が震源域の外に伝播するよりも前に地殻変動成分が推定できており,津波即時予測のさらなる時間短縮につながる可能性がある.
沿岸の稠密な津波海底記録を数値シミュレーションに逐次的に同化することで,初期条件である震源での破壊やそれに伴う初期水位でなく,現時刻の津波波動場そのものを直接推定することが可能であることが示されている.このデータ同化による方法は,震源での断層すべり分布推定に伴う不確実性を避けられ,また地震動にも依存しないため津波地震や遠地地震のような近傍地震観測でトリガーされにくい津波にも対応できるなど,津波の常時監視や即時予測に適した側面がある.しかし,現在の深海における多くの津波観測は海底水圧計によるものであり,地震の断層運動に伴う地殻変動が,その直上の観測点において津波波高に対する観測オフセットになってしまう.これは多くの津波即時予測手法について共通の問題であり,データ同化による推定も例外ではなかった.特に地震直後においてこの問題は深刻で,津波が震源断層域から十分に離れてからでないと即時予測への利用が困難であった.本研究では,データ同化による津波即時推定をさらに進め,海底水圧記録のみから津波波高と海底地殻変動成分とを近似的に分離する方法について検討した.
波動方程式に現れる海底水圧観測の効果
線形長波近似の下で,海底水圧から推定した津波波高(水圧波高)を用いることによる影響を考察した.海底水圧計では,真の津波波高と海底地殻変動の差が観測される.一方で線形長波の方程式に従うべきであるのは真の津波波高である.海底地殻変動は断層運動のような外的な要因によって定まる境界条件であることに注意すると,水圧波高は地殻変動に伴う項を見かけの非斉次項として持つ波動方程式に従うことがわかる.この非斉次項の存在が,データ同化において津波推定のオフセットを生じていた原因であった.地震断層破壊後には地殻変動は時間変化しないため,少なくとも破壊終了後の地震波S波到達後は,その地殻変動に伴う非斉次項の中にに現れる時間微分項は0とみなすことができる.一方,非斉次項の空間微分項は時間が経っても有限の値を持ち続けてしまうため,特に影響が大きい.
データ同化と逐次的波動方程式残差モデリング
海底水圧観測記録から真の津波波高と海底地殻変動を分離推定するために,データ同化に基づく2段階の推定法を考案した.まず,データ同化により海底水圧記録を津波の方程式に同化する.具体的には,既存の津波波動場推定値より1離散時間ステップ先の数値予測を行い,その観測点における観測記録とを比較する.そして,予測値と観測記録との残差を元に,その周辺地点の津波波高振幅を最適内挿法によって修正する.この手続きを毎離散時間ステップ繰り返すことにより,記録にシミュレーションモデルを同化させていく.
圧力波高を用いるため,同化された津波波高には必然的に地殻変動の影響が混入している.そこで,同化された津波波動場の時間及び空間の2階微分から波動方程式の斉次項を数値的に評価し,その残差として波動方程式の非斉次項振幅を抽出する.地殻変動の2階の時間微分項を無視すると残差項はLaplace方程式に従うので,これを数値的に解くことで地殻変動成分が得られる.推定された地殻変動成分をデータ同化の結果から差し引くことで,真の波高の推定値が得られ,津波波高振幅と地殻変動とを分離することができる.さらに,推定された真の津波波高振幅の空間微分から,真の流速分布を再推定することもできる.
数値実験
単純な1次元津波モデルを用いて,提案手法のデータ同化数値実験を行った.一様水深3000 mの媒質に観測点を30 km毎に配置し,そこでのシミュレーション結果を仮想観測データとした.その離散的な観測記録のみから,毎秒の津波波高と流速の空間分布を逐次的に推定した.第1段階である圧力波高のデータ同化においては,初期波源近傍から十分に広がるまでは津波が検知できない.また,津波が伝播した後には震源近傍にオフセットが残り,それが推定された流速の人為的な増大を招く様子が確認された.しかし,今回提案した2段階の分離結果ではこれらの問題が解消した.第1段階のデータ同化結果よりやや推定誤差が多くなるものの,真の津波と地殻変動とが海底水圧記録のみから分離できている様子が確認された.特に,初期水位の上昇が始まった直後から,その変動が地殻変動として推定されていることは特筆に値する.地震動や海底変化の動的な項を無視した近似の下ではあるが,津波が震源域の外に伝播するよりも前に地殻変動成分が推定できており,津波即時予測のさらなる時間短縮につながる可能性がある.