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[HDS19-19] 千葉県銚子市の古文書記録に基づく1703年元禄関東地震津波の波源モデルに関する考察
キーワード:元禄関東地震津波、古文書、数値シミュレーション、断層モデル、千葉県銚子市
元禄十六年(1703)に関東地方を襲った元禄関東地震では、地震のみならず巨大な津波によって甚大な被害が発生した。元禄関東地震の断層は、主に陸の地殻変動量からのインバージョン解析により推定される場合が多い。ただし、相模トラフ沿いの沖合を震源とする断層においては、陸の地殻変動量に対する影響は小さく、地殻変動量から断層を決定することは困難となる。そのため、相模トラフ沿いにおける断層を推定するには、津波痕跡高の情報が必要となる。しかしながら、千葉県東部の元禄関東地震津波に関する痕跡データは少なく十分な情報が整っているとは言えない。そこで本研究では、関東東端部に位置する千葉県銚子市に着目し、まだ十分な調査が行われていない銚子市の古文書から津波痕跡高を推定する。 元禄関東地震津波を記述した銚子市の古文書としては、①「田中玄蕃 先代集 乾巻」②「慶長以来銚江略年代記(宝満寺古文書)」、また間接的な記述として、③「渡海神社古文書」がある。これらの記述に基づき津波痕跡高を調査した結果、伊勢地T.P. 5.9 m(信頼度C)、小畑池T.P.11.7m(信頼度A)、長崎T.P. 7.7 m(信頼度C)、外川T.P. 10.8 m(信頼度C)、名洗T.P. 4.8 m(信頼度C)となった。既往研究では、銚子市の津波高は0.9 m~4.0m(東北大学津波痕跡データベース)と推定されていたが、詳細調査から巨大な津波が銚子市に襲来していたことが明らかとなった。 次に、銚子市における津波痕跡高を条件とし、元禄関東地震津波の波源モデルの検討を行う。まずは信頼度Aの小畑池に、既存モデル(内閣府, 2013; 行谷ら, 2011; 佐竹ら, 2008 (宍倉ABC))の津波が到達するかを検討した。その結果、既往モデルでは小畑池まで津波が到達しないことが分かった。銚子市における津波高に強く影響する断層は、相模トラフ沿いの沖合の断層であることから、行谷ら(2011)のモデルをベースに、相模トラフ沿いの断層長さ(50 km~)を大きくしていった結果、断層長さが120 kmとなったときに、銚子市の小畑池に津波が到達することが分かった。この結果より、元禄関東地震では、相模トラフ沿いの沖合120 km程度まで断層の破壊が進行していた可能性が示唆された。今後は、他の地域の古文書記録を精査し、より詳細な断層モデルを検討していく必要がある。