日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS19] 津波とその予測

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*行谷 佑一(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、今井 健太郎(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[HDS19-P02] 1998年パプアニューギニア津波を起こした海底地すべりは地震計で検知可能か?

*勝間田 明男1中田 健嗣1藤田 健一1田中 昌之1小林 昭夫1吉田 康宏2 (1.気象研究所、2.気象大学校)

キーワード:地すべり津波、地震記録、1998年パプアニューギニアの津波

1998年7月にパプアニューギニアにおいて発生したMw 7.0の地震の後に発生した10mを超える津波により2,200名を超える犠牲者が出ている(Tappin et al., 2008).この津波は、地震の規模に比べて大きすぎること、津波の発生が地震の発生よりも約10分ほど遅れているとみられること、海底地形において地すべりを起こしたとみられる場所が確認されていることなどから、海底地すべりが発生源であるとみられている(例えば,Tappin et al., 1999).通常の地震による津波の場合には、地震計で記録される地震波が警戒や避難の最初のトリガとなることが多い.しかし、この1998年のパプアニューギニアのような事例が発生した場合には、地震波から予測される規模の津波には備えるものの、それを超える規模の津波への警戒は通常なされない.リアルタイムモニターの沖合津波観測網が整備されている場合には、それがトリガとはなりうるが,津波の観測点までの伝播を待つ必要がある.もし、海底地すべりが地震計で捉えられるならば,この種の津波に備えることが可能となる.ここでは、1998年のパプアニューギニアのような海底地すべりが地震計で検知可能であるかどうかについて議論する.
Watts et al. (2003)の津波発生源モデルによると、この規模の津波を発生させることができる地すべりは長さ4.5km、幅5km、厚さ760mの規模のものであった.それが傾斜角12度の下で特性時間32秒の地すべりを起こしたとされる.すべりを引き起こす力は重力である.また、停止させる力は摩擦力と流体の抵抗であると考えられる.地すべりが始まる前までは静止摩擦力で保持されていた地塊が、すべり始めた後は動摩擦力による大地からの力の作用を受けていたと考えられる.そのためすべり開始に伴い、静止摩擦と動摩擦の力の差の分だけ、大地に作用する力が変化したと考えられる.
その力は以下のように見積もられる.
(ρ1-ρ2)Va
ここで、ρ1は地塊の密度(2.15×10^3kg/m^3)、ρ2は水の密度(1.0×10^3kg/m^3)、Vは地塊の体積(4,500m×5,000m×760m)、aは初期加速度(0.36m/s^2)である.その力を見積もると7×10^12Nとなる.1980年のセント・へレンズ山の山体崩壊では2.6×10^12の力が作用していたと見積もられている(Kanamori et al., 1984).1987年の伊豆大島の三原山におけるドレインバックでは4×10^11Nの力が作用したとされている(Takeo, 1990).1998年パプアニューギニアの海底地すべりにおいても,同程度以上の大地への力の変化があった可能性が考えられる.7×10^12Nほどの水平方向の力が30秒程度の継続時間で作用したとすると震源から900kmにあるPMG観測点において,他の震動源がない状態であれば地震波形が検知可能とみられる.しかし、地震による震動がはるかに大きなものであり,PMG観測点の地震記録を調べたが,周期数10秒の長周期の地震波に地震以外のイベントらしき地震波形は確認できなかった.