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[HGG12-P07] 常総市上三坂地区における平成27年9月関東・東北豪雨の破堤堆積物の特徴
キーワード:平成27年9月関東・東北豪雨、破堤堆積物、常総市、鬼怒川
はじめに
鬼怒川流域では,2015年9月9日~11日に発生した平成27年9月関東・東北豪雨(気象庁,2015)により河川水位が急激に上昇し,溢水などが発生した.鬼怒川中流の常総市上三坂地区では,鬼怒川左岸側の堤防が幅約200 mにわたって決壊し,堤内地へ氾濫水が流入して多大な被害をもたらした.国交省関東地方整備局(2015)によれば,同地区では10日11時頃には越水が確認され,同日12時50分頃に堤防が決壊した.
本研究では,豪雨災害で堆積した破堤堆積物(増田,1998)の分布や堆積学的な特徴を明らかにするため,深さ50~80 cm程度のミニトレンチを掘削して粒度や堆積構造などを記載するとともに,その一部についてトレンチ壁面のはぎ取りや軟X線写真撮影を行った.
堆積物の分布
破堤箇所の直近には深さ約1.6 m以上,幅最大60 mの侵食地形(落堀とクレバスチャネル)が形成された.破堤堆積物はその東~南側を中心に堆積しており,南東~南へ舌状に伸びる高まり(以下,ローブ)が少なくとも3条認められた.
破堤箇所から約150~250 m以内では,破堤堆積物の層厚は概ね数~10 cm程度で,厚い堆積物は散在する瓦礫の背後など局所的なものに限られる.破堤堆積物の層厚はこれよりも南東側で顕著に大きくなり,破堤箇所から約400 mの地点で最大(約80 cm)となる.そこから下流側へは徐々に薄層化する傾向を示し,破堤箇所から約700 m以南では薄い泥質堆積物のみが分布していた.
破堤堆積物の堆積相
破堤堆積物は細粒~中粒砂を主体とし,下位から順に堆積相A~Cの3ユニットに区分できる.
堆積相A:水田土壌を直接覆う細粒砂層で,逆級化する.水田土壌層との境界は明瞭である.下部ではシルト分を多く含み,一部は砂質シルトとなる.稲などの植物片の集積層が多く挟在する.層厚はローブ北西側で25 cmと最大で,南に向けて徐々に薄層化する.
堆積相B:上方細粒化を示す細粒~中粒砂からなる.稀にレンズ状の中粒砂薄層を挟む.上部では平行葉理を示す地点も認められた.植物片の集積層や瓦礫などを多く含む.ローブ横断面(流向と直交方向)をみると,中央部で約20 cmと最も厚く,両端部に向けて薄層化する.
堆積相C:淘汰の良い細粒~中粒砂から構成される.全体に平行葉理が発達し,最上部でリップル葉理が認められた.ローブ端部では斜行葉理が発達する.細粒砂が卓越するが,稀にφ3 cm程度の円~亜円礫を含む.層厚はローブ南端部で最大となる.
破堤堆積物の堆積過程
各堆積相は,越水や破堤に伴う堆積プロセスの変化を反映していると推定される.
堆積相Aは越水時の堆積物と推定される.逆級化層理は氾濫水の流速増加あるいは粗粒堆積物の流入を示す.氾濫開始期には氾濫水のウォッシュ・ロードが堆積し,その後,氾濫水位と流速が増加したことでやや粗粒な堆積物が流入するようになったと考えられる(増田・伊勢屋,1985).
堆積相Bは,級化層理を示すことから,堆積物重力流による堆積あるいは砕屑物供給量の一時的な減少が推定される.堆積物重力流による場合,破堤に伴って河川水が突発的に流入したことで乱流が発生した可能性が考えられる.本層が侵食地形の下流側にローブ状の堆積していることも,堆積物重力流による堆積と矛盾しない.また,砕屑物供給量の減少を考える場合,破堤直後に破堤箇所周辺に分布していた粗粒砕屑物が氾濫原に運搬されたため,粗粒堆積物供給量が一時的に減少し堆積相B上部に細粒な懸濁物が堆積した可能性がある.
堆積相Cは小礫を含むことや平行葉理が発達していることから,流れの高領域で堆積したと考えられる.破堤後には決壊区間の拡大とともに氾濫水の勢いが強くなり,それが継続したことから(常田,2015),本層は破堤後の氾濫水流入に伴う堆積物と推定される.上部のリップル葉理はローブの成長や氾濫水位の低下に伴って氾濫水の流速が減少したことを示唆する.
参考文献
気象庁(2015)平成 27 年 9 月 9 日から 11 日に関東地方及び東北地方で発生した 豪雨の命名について.(2015年9月18日).
増田富士雄(1998)堤防決壊堆積物.堆積学研究会編『堆積学辞典』,292.朝倉書店.
増田富士雄・伊勢屋ふじこ(1985)堆積物研究会報,22-23,108-116.
常田賢一(2015)災害科学研究所平成27年度災害等緊急調査報告書.
鬼怒川流域では,2015年9月9日~11日に発生した平成27年9月関東・東北豪雨(気象庁,2015)により河川水位が急激に上昇し,溢水などが発生した.鬼怒川中流の常総市上三坂地区では,鬼怒川左岸側の堤防が幅約200 mにわたって決壊し,堤内地へ氾濫水が流入して多大な被害をもたらした.国交省関東地方整備局(2015)によれば,同地区では10日11時頃には越水が確認され,同日12時50分頃に堤防が決壊した.
本研究では,豪雨災害で堆積した破堤堆積物(増田,1998)の分布や堆積学的な特徴を明らかにするため,深さ50~80 cm程度のミニトレンチを掘削して粒度や堆積構造などを記載するとともに,その一部についてトレンチ壁面のはぎ取りや軟X線写真撮影を行った.
堆積物の分布
破堤箇所の直近には深さ約1.6 m以上,幅最大60 mの侵食地形(落堀とクレバスチャネル)が形成された.破堤堆積物はその東~南側を中心に堆積しており,南東~南へ舌状に伸びる高まり(以下,ローブ)が少なくとも3条認められた.
破堤箇所から約150~250 m以内では,破堤堆積物の層厚は概ね数~10 cm程度で,厚い堆積物は散在する瓦礫の背後など局所的なものに限られる.破堤堆積物の層厚はこれよりも南東側で顕著に大きくなり,破堤箇所から約400 mの地点で最大(約80 cm)となる.そこから下流側へは徐々に薄層化する傾向を示し,破堤箇所から約700 m以南では薄い泥質堆積物のみが分布していた.
破堤堆積物の堆積相
破堤堆積物は細粒~中粒砂を主体とし,下位から順に堆積相A~Cの3ユニットに区分できる.
堆積相A:水田土壌を直接覆う細粒砂層で,逆級化する.水田土壌層との境界は明瞭である.下部ではシルト分を多く含み,一部は砂質シルトとなる.稲などの植物片の集積層が多く挟在する.層厚はローブ北西側で25 cmと最大で,南に向けて徐々に薄層化する.
堆積相B:上方細粒化を示す細粒~中粒砂からなる.稀にレンズ状の中粒砂薄層を挟む.上部では平行葉理を示す地点も認められた.植物片の集積層や瓦礫などを多く含む.ローブ横断面(流向と直交方向)をみると,中央部で約20 cmと最も厚く,両端部に向けて薄層化する.
堆積相C:淘汰の良い細粒~中粒砂から構成される.全体に平行葉理が発達し,最上部でリップル葉理が認められた.ローブ端部では斜行葉理が発達する.細粒砂が卓越するが,稀にφ3 cm程度の円~亜円礫を含む.層厚はローブ南端部で最大となる.
破堤堆積物の堆積過程
各堆積相は,越水や破堤に伴う堆積プロセスの変化を反映していると推定される.
堆積相Aは越水時の堆積物と推定される.逆級化層理は氾濫水の流速増加あるいは粗粒堆積物の流入を示す.氾濫開始期には氾濫水のウォッシュ・ロードが堆積し,その後,氾濫水位と流速が増加したことでやや粗粒な堆積物が流入するようになったと考えられる(増田・伊勢屋,1985).
堆積相Bは,級化層理を示すことから,堆積物重力流による堆積あるいは砕屑物供給量の一時的な減少が推定される.堆積物重力流による場合,破堤に伴って河川水が突発的に流入したことで乱流が発生した可能性が考えられる.本層が侵食地形の下流側にローブ状の堆積していることも,堆積物重力流による堆積と矛盾しない.また,砕屑物供給量の減少を考える場合,破堤直後に破堤箇所周辺に分布していた粗粒砕屑物が氾濫原に運搬されたため,粗粒堆積物供給量が一時的に減少し堆積相B上部に細粒な懸濁物が堆積した可能性がある.
堆積相Cは小礫を含むことや平行葉理が発達していることから,流れの高領域で堆積したと考えられる.破堤後には決壊区間の拡大とともに氾濫水の勢いが強くなり,それが継続したことから(常田,2015),本層は破堤後の氾濫水流入に伴う堆積物と推定される.上部のリップル葉理はローブの成長や氾濫水位の低下に伴って氾濫水の流速が減少したことを示唆する.
参考文献
気象庁(2015)平成 27 年 9 月 9 日から 11 日に関東地方及び東北地方で発生した 豪雨の命名について.(2015年9月18日).
増田富士雄(1998)堤防決壊堆積物.堆積学研究会編『堆積学辞典』,292.朝倉書店.
増田富士雄・伊勢屋ふじこ(1985)堆積物研究会報,22-23,108-116.
常田賢一(2015)災害科学研究所平成27年度災害等緊急調査報告書.