日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG13] 自然資源・環境の利用と管理

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 101A (1F)

コンビーナ:*上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、座長:大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)

14:45 〜 15:00

[HGG13-05] ナミビア北中部における農地林の利用と管理にみられる変化

*藤岡 悠一郎1 (1.東北大学学際科学フロンティア研究所)

キーワード:アグロフォレストリー、樹木利用、共同利用、土地の私有化、乾燥地

1. はじめに
アフリカの半乾燥地域に位置するいくつかの農村では、樹木が畑のなかに同所的に生育している、農地林(アグロフォレスト)とよべる景観が成立している。農地林とは、物質循環のバランスを保つため、あるいは樹木自体がもつ経済的・物質的・儀礼的な価値のために樹木が切り残された、いわば人と生態環境との関係が創り出す地域固有の景観である。半乾燥地においては、人為や気候変動に起因して進行する砂漠化に対する予防的対処が重要な課題となっているが、その対応策のひとつとして、樹木を組み合わせた複合的な土地利用による集約性の向上が注目されてきた。また、林産物を商品化することで住民のエンパワメントを強化しつつ林を残そうという動きもみられる。他方、地域を取り巻く社会経済状況が大きく移り変わる中で、樹木の利用や管理方法が大きく変化しつつある。本発表では、ナミビア北中部の農牧社会において成立する農地林に注目し、その成立メカニズムを明らかにする。そして、土地の私有化などにともない樹木の利用や管理形態がいかに変わり、農地林の植生に影響が生じているのかを検討し、将来的な管理のあり方を考察する。
2. 方法
ナミビア北中部に位置するU村において現地調査を実施した。U村はこの地域の主要都市であるオシャカティ町から10kmほどの場所にある都市近郊村である。この村の30世帯を対象に、樹木利用に関する聞き取り調査を実施した。また、GPS受信機を用いて土地利用図を作成し、植生調査を実施した。さらに、撮影年次の異なる航空写真の比較から、U村の植生変化を分析した。
3. 結果と考察
1. ナミビア北部では、かつての王国周辺に潜在植生とは異なる、在来の果樹の割合が高い人為植生が成立していた。高木層の主要構成種であるドゥームヤシ(Hyphaene petersiana)とマルーラ(Sclerocarya birrea)は、生育本数の半分以上が畑地内に生育していた。このような農地林の成立には、農地に生育する樹木に対して農地を保有する世帯に用益権が付与されるという慣習的な制度と樹木に対する人々の保育的な関与、伝統的権威による所有権の管理という要因がみられた。
2. 1970年から96年にかけての航空写真の分析によると、農地に生育する樹木の数は増加傾向にあった。しかし、植生調査の結果から、後継樹が必ずしも育っていないことも明らかになった。その背景には、農業の機械化により、畑に生えてきた稚樹が育たないことや十分な農地を確保するために樹木を意図的に排除するような管理がみられた。
3. 現代の樹木に対する関与の仕方は、世帯による差異が大きい傾向が見られた。その背景には、独立期における伝統的指導者の社会的な役割の変化により、土地や樹木の慣習的な所有権のあり方が変化したことや樹木に対する用途の変化があげられる。そのようななかで、樹木を増やそうとする世帯と減らそうとする世帯が村内に同時的に生じ、農地林がモザイク化する傾向にある。