10:15 〜 10:30
[HGM14-06] 造山帯と大地形―数値標高モデルを用いた再検討―
★招待講演
キーワード:造山帯、大地形、数値標高モデル(DEM)、地理教育
造山運動という用語は,その意味することが使い手によってしばしば異なり,誤解を生みやすい専門用語である。さらに,地球科学においては「造山帯」は地質による地域区分であるが,高校の地理教育によって,一般には「造山帯」は地形の区分であると誤解されている。つまり高校では,新期造山帯は高くて険しい山脈,古期造山帯はなだらかな山脈であり,さらに古い安定陸塊(安定地塊)は平原であると教えられている(例えば,池田,2015)。そこで本発表では,大陸地殻の成長期と,数値標高モデルから抽出した標高および高低差の関係を検討し,造山帯と大地形の関係をどのように理解すればよいのか提案する。
1グリッドを150 km四方にして表した標高や高低差の分布をみると,幅数百kmの山岳地帯は,パンゲア分裂(中生代)以降の造山運動を示す地質構造と対応関係がよいことが確かめられた(図1)。一方,パンゲア形成期(古生代)の造山運動でできた造山帯と先カンブリア時代の造山運動でできた安定地塊(盾状地・卓状地)を比べると,両者の起伏に差は認められなかった(図2)。つまり,造山運動終了後の侵食時間の長短によって,新期造山帯とそれ以外の大地形に差ができると教育するのはよいが,同じ理由で安定地塊と古期造山帯の大地形に差があると教育するのは望ましくない。なお,古期造山帯や安定地塊でも「例外的に」起伏が大きいところがあるが,その成因については,造山帯の年代よりずっと最近になって,起伏を大きくする作用が働いた可能性を検討するのがよい。
大地形の標高は基本的にアイソスタシーを反映するために,造山運動とはプレート収束境界における大陸地殻の成長過程であるという定義(平ほか,1998)を採用し,造山帯を大地形と対応付けることが,もっとも合理的な説明であると考えられる。貝塚(1996)は,新しい造山帯=変動帯という用語法を採用し,陸上の大地形の地域差を説明している。しかし,変動帯という概念には地殻の厚化が含まれておらず,1千万年前よりも昔に遡って変動帯を復元することも難しいことから,その語は第四紀の地殻変動や中小の地形の分布を説明する際にとどめておく方がよいと思われる。
引用文献
Amante, C. and Eakins, B.W. (2009) ETOPO1 1 Arc-Minute Global Relief Model: Procedures, Data Sources and Analysis, NOAA Technical Memorandum NESDIS NGDC-24.
Artemieva, I.M. (2006) Global 1°×1° thermal model TC1 for the continental lithosphere: Implications for lithosphere secular evolution. Tectonophysics, 416, 245-277.
池田 敦(2015)高校生に「大地形」をどう教えますか? ②造山帯・盾状地・卓状地の分け方、ご存じですか? 地理, 60(11), 118-124.
貝塚爽平(1996)世界の変動地形と地質構造.貝塚爽平編『世界の地形』東京大学出版会,pp. 3-15.
Laske, G. and Masters, G. (1997) A global digital map of sediment thickness. EOS Trans. AGU, 78, F483.
平 朝彦・阿部 豊・川上伸一・清川昌一・有馬 眞・田近英一・箕浦幸治(1998)『地球進化論』岩波書店.
1グリッドを150 km四方にして表した標高や高低差の分布をみると,幅数百kmの山岳地帯は,パンゲア分裂(中生代)以降の造山運動を示す地質構造と対応関係がよいことが確かめられた(図1)。一方,パンゲア形成期(古生代)の造山運動でできた造山帯と先カンブリア時代の造山運動でできた安定地塊(盾状地・卓状地)を比べると,両者の起伏に差は認められなかった(図2)。つまり,造山運動終了後の侵食時間の長短によって,新期造山帯とそれ以外の大地形に差ができると教育するのはよいが,同じ理由で安定地塊と古期造山帯の大地形に差があると教育するのは望ましくない。なお,古期造山帯や安定地塊でも「例外的に」起伏が大きいところがあるが,その成因については,造山帯の年代よりずっと最近になって,起伏を大きくする作用が働いた可能性を検討するのがよい。
大地形の標高は基本的にアイソスタシーを反映するために,造山運動とはプレート収束境界における大陸地殻の成長過程であるという定義(平ほか,1998)を採用し,造山帯を大地形と対応付けることが,もっとも合理的な説明であると考えられる。貝塚(1996)は,新しい造山帯=変動帯という用語法を採用し,陸上の大地形の地域差を説明している。しかし,変動帯という概念には地殻の厚化が含まれておらず,1千万年前よりも昔に遡って変動帯を復元することも難しいことから,その語は第四紀の地殻変動や中小の地形の分布を説明する際にとどめておく方がよいと思われる。
引用文献
Amante, C. and Eakins, B.W. (2009) ETOPO1 1 Arc-Minute Global Relief Model: Procedures, Data Sources and Analysis, NOAA Technical Memorandum NESDIS NGDC-24.
Artemieva, I.M. (2006) Global 1°×1° thermal model TC1 for the continental lithosphere: Implications for lithosphere secular evolution. Tectonophysics, 416, 245-277.
池田 敦(2015)高校生に「大地形」をどう教えますか? ②造山帯・盾状地・卓状地の分け方、ご存じですか? 地理, 60(11), 118-124.
貝塚爽平(1996)世界の変動地形と地質構造.貝塚爽平編『世界の地形』東京大学出版会,pp. 3-15.
Laske, G. and Masters, G. (1997) A global digital map of sediment thickness. EOS Trans. AGU, 78, F483.
平 朝彦・阿部 豊・川上伸一・清川昌一・有馬 眞・田近英一・箕浦幸治(1998)『地球進化論』岩波書店.