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[HQR15-04] 鹿島沖海底コアMD01-2421に介在する男体山七本桜/今市テフラの同定
キーワード:男体山七本桜/今市テフラ、テフラ層序、酸素同位体比層序、IMAGES、海洋コア、鹿島沖
鹿島沖から採取された長さ約46 m,MIS 6.3以降の連続した堆積物であるMD01-2412コアに介在するテフラについて,青木ほか(2008)では上位から順にTephra1からTephra23まで番号をつけ,その岩石学的特徴と火山ガラスの主元素組成分析に基づき既知のテフラとの対比を試みた.その結果,九州起源のATとAso-4,御岳山を給源とし中部~東北地方に広く分布するOn-Pm1,北関東に分布するAg-KP,南関東に分布するHk-TP,立山カルデラ起源のTt-D,福島県南部で対比されているTGの合計7層の広域テフラが同定された.その後,残りの16層のテフラの給源火山について検討を重ねているが,本発表ではコア上部のTephra 1について新しく得られた知見について報告する.
Tephra 1 (925.6-933.1 cm)は,最大粒径3 mmの白色~薄茶色の軽石粒に黒色のスコリアが混じる淘汰の悪い火山砂で,層厚は7.5 cmであるが,液状の泥の中で擾乱を受けている.本テフラ層の堆積年代は有孔虫殻の14C年代値と酸素同位体比層序から17.7±1.38 kaと推定されている.軽石の発泡は細かく,マイクロライト(microlite: 火成岩中に見られる極めて微細な結晶)を多く取り込んでいる.火山ガラスの屈折率は,1.498-1.503と1.503-1.509の二つのピーク(バイモード)を示す.青木ほか(2008)では,63-125 µmの粒子は火山起源粒子のほかに風化鉱物を多く含み,125-250 µmの火山ガラスの主元素組成が不均質であることから,本テフラ層の250 µm以下の粒子については本質物以外の混入の可能性を指摘していた.
そこで,Tephra1の直径2-3mm程度の軽石粒を選別して粉砕後にEPMAで分析したところ,流紋岩質で比較的アルカリ成分に富む主元素組成(SiO2;78.3wt%,NaO2;3.18wt%,K2O;3.79wt%)であることがわかった.また,本テフラ層が堆積したと推定されている17.7±1.38 ka頃に噴火した可能性の高いテフラの中で,男体山七本桜/今市テフラ(Nt-S/I)の軽石の主元素組成を分析したところ,ややバイモードな特徴を示し,そのうちK2Oの含有量がやや少なめの軽石の主元素組成(SiO2;77.7wt%,NaO2;3.23wt%,K2O;3.97wt%)がTephra1の軽石と良く似ることから対比される可能性が高い.
Nt-S/Iは栃木県西部の日光火山群の男体山を起源とし,同一噴火イベントのテフラと見なされている上位の七本桜軽石層(SP;関東ローム研究グループ,1965)と下位の今市軽石層(IP;関東ローム研究グループ,1965)からなる.スコリアを含む降下軽石層は,主に給源から東方に向けて分布し,鬼怒川低地帯を横断して水戸周辺から常磐海岸まで確認されている(町田・新井,2003;鈴木,2011).Tephra1に含まれているNt-S/Iは軽石粒が主で,細粒部の火山性粒子は混入物が多いことから,鹿島沖のコア採取地点に直接降下した可能性は低いと考えている.少なくとも軽石粒に関しては,水戸沖に降下した軽石粒や,鬼怒川や那珂川によって太平洋まで運搬された軽石粒が,海流でコア採取地点の鹿島沖まで運ばれた可能性が高いと考えている.
日光市周辺ではNt-S/Iの直下に浅間板鼻黄色テフラ(As-YP;町田・新井,2003)が確認されている(鈴木,2011).青木ほか(2008)で報告したテフラは岩相観察で視認できるテフラ層についての報告であることから,Tephra1の直下にクリプトテフラとしてAs-YPが介在している可能性が高い.
青木かおり・入野智久・大場忠道,2008,鹿島沖海底コアMD01-2421の後期更新世テフラ層序. 第四紀研究,47,391-407.
関東ローム研究グループ,1965,関東ローム-その起源と性状-.築地書館,378p.
町田洋・新井房夫,2003,火山灰アトラス〔日本列島とその周辺〕. 東京大学出版会,336p.
鈴木毅彦,2011,鬼怒川低地帯の第四紀テフラ層序―火山噴火史と平野の形成史―.地質学雑誌,117,121-133.
Tephra 1 (925.6-933.1 cm)は,最大粒径3 mmの白色~薄茶色の軽石粒に黒色のスコリアが混じる淘汰の悪い火山砂で,層厚は7.5 cmであるが,液状の泥の中で擾乱を受けている.本テフラ層の堆積年代は有孔虫殻の14C年代値と酸素同位体比層序から17.7±1.38 kaと推定されている.軽石の発泡は細かく,マイクロライト(microlite: 火成岩中に見られる極めて微細な結晶)を多く取り込んでいる.火山ガラスの屈折率は,1.498-1.503と1.503-1.509の二つのピーク(バイモード)を示す.青木ほか(2008)では,63-125 µmの粒子は火山起源粒子のほかに風化鉱物を多く含み,125-250 µmの火山ガラスの主元素組成が不均質であることから,本テフラ層の250 µm以下の粒子については本質物以外の混入の可能性を指摘していた.
そこで,Tephra1の直径2-3mm程度の軽石粒を選別して粉砕後にEPMAで分析したところ,流紋岩質で比較的アルカリ成分に富む主元素組成(SiO2;78.3wt%,NaO2;3.18wt%,K2O;3.79wt%)であることがわかった.また,本テフラ層が堆積したと推定されている17.7±1.38 ka頃に噴火した可能性の高いテフラの中で,男体山七本桜/今市テフラ(Nt-S/I)の軽石の主元素組成を分析したところ,ややバイモードな特徴を示し,そのうちK2Oの含有量がやや少なめの軽石の主元素組成(SiO2;77.7wt%,NaO2;3.23wt%,K2O;3.97wt%)がTephra1の軽石と良く似ることから対比される可能性が高い.
Nt-S/Iは栃木県西部の日光火山群の男体山を起源とし,同一噴火イベントのテフラと見なされている上位の七本桜軽石層(SP;関東ローム研究グループ,1965)と下位の今市軽石層(IP;関東ローム研究グループ,1965)からなる.スコリアを含む降下軽石層は,主に給源から東方に向けて分布し,鬼怒川低地帯を横断して水戸周辺から常磐海岸まで確認されている(町田・新井,2003;鈴木,2011).Tephra1に含まれているNt-S/Iは軽石粒が主で,細粒部の火山性粒子は混入物が多いことから,鹿島沖のコア採取地点に直接降下した可能性は低いと考えている.少なくとも軽石粒に関しては,水戸沖に降下した軽石粒や,鬼怒川や那珂川によって太平洋まで運搬された軽石粒が,海流でコア採取地点の鹿島沖まで運ばれた可能性が高いと考えている.
日光市周辺ではNt-S/Iの直下に浅間板鼻黄色テフラ(As-YP;町田・新井,2003)が確認されている(鈴木,2011).青木ほか(2008)で報告したテフラは岩相観察で視認できるテフラ層についての報告であることから,Tephra1の直下にクリプトテフラとしてAs-YPが介在している可能性が高い.
青木かおり・入野智久・大場忠道,2008,鹿島沖海底コアMD01-2421の後期更新世テフラ層序. 第四紀研究,47,391-407.
関東ローム研究グループ,1965,関東ローム-その起源と性状-.築地書館,378p.
町田洋・新井房夫,2003,火山灰アトラス〔日本列島とその周辺〕. 東京大学出版会,336p.
鈴木毅彦,2011,鬼怒川低地帯の第四紀テフラ層序―火山噴火史と平野の形成史―.地質学雑誌,117,121-133.