日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR15] ヒト-環境系の時系列ダイナミクス

2016年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 101A (1F)

コンビーナ:*須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、水野 清秀(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質情報研究部門)、米田 穣(東京大学総合研究博物館)、座長:須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、水野 清秀(独立行政法人産業技術総合研究所地質情報研究部門)

10:00 〜 10:15

[HQR15-05] 後期更新世広域テフラ,大山倉吉テフラの噴出年代:太平洋鹿島沖MD01-2421コアをもちいた再検討

*鈴木 毅彦1青木 かおり2丸山 正3斎藤 勝4 (1.首都大学東京都市環境学部、2.立正大学、3.国立研究開発法人産業技術総合研究所活断層・火山研究部門、4.株式会社ダイヤコンサルタント)

キーワード:広域テフラ、後期更新世、DKP、マリンテフラ

広範囲に等時間面を提供するテフラは優れた年代指標となるが,その正確な数値年代の決定に困難を伴う場合が多い.年代値が再検討される場合や,研究者により異なる年代値が採用されることもある.またテフラの認定自体が議論の対象となることもある.日本列島を広く被覆する広域テフラにはその様な事例が多くあり,本研究で扱う大山倉吉テフラ(以下,DKP)(町田・新井,1979)もその一つである.
山陰地域の大山火山より後期更新世中葉に噴出したDKPは,中部地方から北関東・南東北に広く分布するため,同地域において氷期に形成された気候段丘の編年や花粉等による古気候復元,地殻変動の定量的評価をする上で重要な役割を果たしてきた.しかしその噴出年代についてはこれまで様々な年代値が公表されている.DKPをはじめて広域テフラとして認識した町田・新井(1979)では45–47 kaの年代が示され,その後約50 ka(竹本,1991),50–52 ka(中村ほか,1992), >55 ka(町田・新井,2003),49–53 ka(山元・長谷部,2014),55–66 ka(鈴木ほか,2016)などの年代値が提案されている.DKPの噴出年代を検討する上で重要なテフラとして,太平洋鹿島沖コアでの酸素同位体層序により66.0±5.5 kaの年代値が与えられた箱根東京テフラ(Hk-TP)(青木ほか,2008)があげられる.DKPはHk-TPの直上に位置するとされ(竹本ほか,1987;竹本,1991;鈴木,1996),これを根拠の一つとして竹本(1991)の約50 kaや中村ほか(1992)による50–52 kaの年代値が示されている.しかしDKPとHk-TPの層位関係は火山灰土中に含まれる斜方輝石の屈折率や鉱物組合など限られたテフラ特性に基づくなど,充分なデータが得られていない.またHk-TPの噴出年代は以前より古く考えられるようになり,例えば中村ほか(1992)では噴出年代を52 ka(未較正の放射性炭素年代値)としていたが,上に述べたように青木ほか(2008)では66.0±5.5 ka,さらにルミネッセンス法により67.5±4.3 ka(Tsukamoto et al., 2010)という放射年代値も得られている.
正確なDKPの層位・年代を検討するには火山ガラスの主成分化学組成をはじめ多種のテフラ特性を充実させた上での認定や,各種テフラの最新の年代値を考慮することが必要である.その一つとしてHk-TPの噴出年代を決定した鹿島沖コア中でのDKPの検出は重要と考える.
今回,太平洋鹿島沖コアで採取されたピストン・コア(MD01-2421)を再検討した.深度2113.90–2116.30 cmに位置するHk-TP(青木ほか,2008のTephra 8)の93.45 cm上位となる深度2018.20–2020.45 cmには,粒径0.2 mmの白色軽石が認められる.そのガラス部の屈折率は1.508-1.514,15測定による主成分組成の平均重量%と標準偏差(括弧内)は,SiO2: 73.57 (0.34),Al2O3: 14.74 (0.14),FeO: 1.90 (0.12),CaO: 2.12 (0.05), K2O: 2.55 (0.09),Na2O: 4.13 (0.34)を示す.これらの特性は富山県南砺市法林寺(丸山・斎藤,2014)と福島県会津坂下町中岩田(鈴木ほか,2016)のDKP試料(いずれも火山ガラスが保存されている)の特性と類似する.上下の層準についても同様な軽石の存在を今後検討するが,同層準がDKPの層位に近接する可能性は高い.
本試料産出層準下位のTephra 7(2059.00–2084.00 cm)には63.2±6.5 ka,上位のTephra 6(2006.30–2008.80 cm)には59.0±5.5 kaの推定年代が酸素同位体層序により示されている(青木ほか,2008).また同コアの酸素同位体比カーブ(Oba et al., 2006)とMartinson et al.(1987)の酸素同位体比カーブからは本試料産出層準はMIS 4.0–4.22に位置し,年代は60.08±5.68 kaとなる.
引用文献
青木ほか(2008)第四紀研究,47,391-407.町田・新井(1979)地学雑誌,88,33-50.町田・新井(2003)新編火山灰アトラス,東京大学出版会.Martinson et al. (1987) Quaternary Research, 27, 1-29. 丸山・斎藤(2014)地質調査研究報告,65,1-9.中村ほか(1992)地質学雑誌,98,905-908.Oba et al. (2006) Global and Planetary Changes, 53, 5-20.竹本ほか(1987)第四紀研究,25,337-352.竹本(1991)駒澤地理,27,131-150.Tsukamoto et al. (2010) Quaternary Geochronology, 5, 274-278.鈴木(1996)第四紀露頭集,日本第四紀学会.鈴木ほか(2016)第四紀研究,55,1-16.山元・長谷部(2014)地質学雑誌,120,1-9.