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[HQR15-12] トルコ・カイセリ盆地南東エルジエス断層の第四紀の活動
キーワード:活断層、火砕流堆積物、カイセリ
トルコ・アナトリア中部,カイセリ盆地南東縁を限るエルジエス断層は,エジェミス断層,トゥズギョル断層とともに,アナトリアマイクロプレ−ト内部の主要な活断層の一つである.Emre ほか (2011: MTA発行の新しい50万分の1活断層図,カイセリ図幅)は,総延長約 100 km のエルジエス断層を記載している.そのうち中部の約50 km がカイセリ盆地南東縁に沿って延びる.また南西端の 30 km は第四紀末期の成層火山であるエルジエス火山を二つに断ち切るように記載されている.断層中部は中央アナトリアの中心都市で人口 150 万人を擁するカイセリ市に隣接しており,もしもこの断層から M7 クラスの大地震が発生した場合,甚大な被害が予想される.しかし,エルジエス断層の第四紀後期の活動履歴や変位速度については全く情報がなく,Emre ほか (2011) が記載したトレースの一部は実在するかどうかも不確かである.筆者らは,エルジエス断層中部で,鮮新更新統の火砕流堆積物,河成堆積物,降下テフラ層と断層変位地形を調査して,第四紀の断層運動を明らかにした.また,現地観察に加え,小型無人航空機(sUAV)とSfM多視点ステレオ写真測量を用いた高精細地形計測を行った.これにより,数百 m 長の範囲内におけるcm単位の解像度をもつ地形情報を取得し,地表の小崖などといった微地形を認定した.カイセリ盆地西部の盆地とその周縁には,2.5〜3.0 Ma の年代が報告されている Valibabatepe (あるいは Incesu) ignimbrite が広く分布している.Valibabatepe Ignimbirite は厚さ3〜5 m の極めて強く溶結した火砕流堆積物で,カイセリ盆地の外の火砕流台地の最上部を覆って平坦な台地面を構成している.カイセリ市東北東 18 km の Gesi Guney 付近では,標高 1340 m 前後の火砕流台地頂面と,その下の標高 1250〜1270 m の台地の上に Valibabatepe Ignimbrite が分布し,その間にエルジエス断層が推定されている.ここで断層崖とみられる斜面の最下部には,鮮新統の火砕流堆積物と最近の崖錐堆積物とが正断層で接している.また,斜面を開析するガリーの作った扇状地面にも不明瞭であるが,流路と直行する断層状の段差を認めることができる.従って,この斜面の比高約 70m は Valibabatepe Ignimbrite 堆積後の第四紀におけるエルジエス断層の累積変位量とみることができる.カイセリ市の中心から北東 25 km にある Gunesli 付近では,盆地と南東側の火砕流台地との間に直線的な緩やかな斜面が連なり,その斜面から盆地床にかけて未固結の砂礫層が分布している.砂礫層分布域の外には盆地内部まで Valibabatepe Ignimbrite が分布するが,砂礫層を覆ってはいないため,この砂礫層の年代は第四紀とみられる.台地前縁から約 100 m 南西で,この砂礫層と下位の火砕流堆積物,上位の降下軽石層が垂直な断層群によって切られている.断層帯の中にはこの露頭には分布しない砂層が水平に成層したまま挟み込まれており,断層が大きな横ずれ成分を持つことがわかる.砂礫層を覆う軽石層の年代は未詳であるが,ここでエルジエス断層が第四紀に顕著な横ずれ運動を起こしたことは確実である.