15:30 〜 16:45
[HQR15-P03] 奥羽山脈の大規模地すべり地における湿地の分布と発達過程
キーワード:湿地分布、地すべり地形、発達過程、奥羽山脈
奥羽山脈の第四紀火山では,平面面積が数km2に及ぶ大規模地すべり地がいくつも見られる.このような地すべり地内には大小多様な湿地が存在して湿地群を形成し,急峻な崖,森林と共にモザイク状の景観を創り出し,生物多様性に大きく貢献している.地すべり地内の湿地の形成は,地すべり活動時期に規定され,同一地すべり地内において同時性が推測できる.しかし,その後の湿地の発達速度は異なり,池,湿原(湿性草原)といった様々な発達段階の湿地が共存し,景観や生物相の多様性に更なる貢献をしている.本研究は,奥羽山脈の大規模地すべり地内の湿地を対象に,湿地の分布と発達過程について地形学的に明らかにすることを目的とする.
1976年に国土地理院が撮影した縮尺1:18000と1:15000のカラー空中写真を用いて,地すべり地形及び湿地の判読をおこなった.また,10 mと5 mメッシュの数値標高モデルを用いて,ArcGIS上で斜面傾斜,曲率を計算するとともに水系図を作成し,地形解析をおこなった.
研究対象地として,八幡平火山群内の3つの地すべり地と船形火山群内の2つの地すべり地を選定した.両地域とも,新第三系の凝灰岩上に第四紀の火山溶岩を載せたキャップロック構造をしている.八幡平の3つの地すべり地は,いずれも馬蹄形の滑落崖をもち,地すべり土塊上部の断面は階段状を示すことから,回転すべり(rotational slide)と考えられる.地すべり土塊中部の凹凸地形は細かく,下部は副次的な地すべりによってさらなる土塊の解体が進んでいる.一方,船形山の2つの地すべり地は,滑落崖が直線的で,凹地とブロックの比高がほぼ一定であることから,引張応力の作用する並進地すべり(translational slide)であると考えられる.
湿地の分布は,いずれの地すべり地においても土塊の微地形に規定され,土塊上部のブロックおよびブロック間凹地の規模が大きい場所には,面積の大きな湿地が存在している.湿地の平面形状は,長軸が線状の凹地形に沿う楕円形が多い.八幡平では土塊の中下部では土塊の分化が進み凹凸地形が細かくなるために,湿地面積は小さくなる傾向にある.副次的な地すべり地では滑落崖直下や圧縮リッジ部の凹地に湿地は見られるものの,湿地数は少ない.これは土塊が流動性に富み,斜面傾斜方向に垂直な凹地形が形成されにくいためと考えられる.船形山では分離崖に挟まれた凹地や引張クラック内に湿地が形成され,土塊全体に湿地が分散している.
対象としたすべての地すべり地において,池と湿原の共存が認められ,湿地の発達段階は多様である.池から,湿原を経て森林へと遷移する湿地の発達の要因としては,土砂による埋積,河川侵食による排水路の形成,涵養水の減少などが考えられる.湿地の分布と水系図を重ねると,ほとんどの湿地が水系でつながっている.このうち湿原および森林へと遷移が進んでいる湿地は,河川次数が高く,下刻が進行した谷に接続している場合が多く,河川による地すべり土塊の開析が湿地の発達促進に大きく影響していると言える.また,船形山の長沼のような堰止湖(地すべりダム)は,上流からの涵養水の供給が多く,排水路が形成された後も他の湿地に比べて池の状態が長時間継続する可能性が考えられる.
1976年に国土地理院が撮影した縮尺1:18000と1:15000のカラー空中写真を用いて,地すべり地形及び湿地の判読をおこなった.また,10 mと5 mメッシュの数値標高モデルを用いて,ArcGIS上で斜面傾斜,曲率を計算するとともに水系図を作成し,地形解析をおこなった.
研究対象地として,八幡平火山群内の3つの地すべり地と船形火山群内の2つの地すべり地を選定した.両地域とも,新第三系の凝灰岩上に第四紀の火山溶岩を載せたキャップロック構造をしている.八幡平の3つの地すべり地は,いずれも馬蹄形の滑落崖をもち,地すべり土塊上部の断面は階段状を示すことから,回転すべり(rotational slide)と考えられる.地すべり土塊中部の凹凸地形は細かく,下部は副次的な地すべりによってさらなる土塊の解体が進んでいる.一方,船形山の2つの地すべり地は,滑落崖が直線的で,凹地とブロックの比高がほぼ一定であることから,引張応力の作用する並進地すべり(translational slide)であると考えられる.
湿地の分布は,いずれの地すべり地においても土塊の微地形に規定され,土塊上部のブロックおよびブロック間凹地の規模が大きい場所には,面積の大きな湿地が存在している.湿地の平面形状は,長軸が線状の凹地形に沿う楕円形が多い.八幡平では土塊の中下部では土塊の分化が進み凹凸地形が細かくなるために,湿地面積は小さくなる傾向にある.副次的な地すべり地では滑落崖直下や圧縮リッジ部の凹地に湿地は見られるものの,湿地数は少ない.これは土塊が流動性に富み,斜面傾斜方向に垂直な凹地形が形成されにくいためと考えられる.船形山では分離崖に挟まれた凹地や引張クラック内に湿地が形成され,土塊全体に湿地が分散している.
対象としたすべての地すべり地において,池と湿原の共存が認められ,湿地の発達段階は多様である.池から,湿原を経て森林へと遷移する湿地の発達の要因としては,土砂による埋積,河川侵食による排水路の形成,涵養水の減少などが考えられる.湿地の分布と水系図を重ねると,ほとんどの湿地が水系でつながっている.このうち湿原および森林へと遷移が進んでいる湿地は,河川次数が高く,下刻が進行した谷に接続している場合が多く,河川による地すべり土塊の開析が湿地の発達促進に大きく影響していると言える.また,船形山の長沼のような堰止湖(地すべりダム)は,上流からの涵養水の供給が多く,排水路が形成された後も他の湿地に比べて池の状態が長時間継続する可能性が考えられる.