15:30 〜 16:45
[HQR15-P04] 津谷平野完新統の堆積過程と三陸海岸南部における沈降傾向の関係
キーワード:三陸海岸、津谷平野、完新統、14C年代、沈降
東北地方太平洋岸に位置する三陸海岸のうち,宮古以南は典型的なリアス海岸であり,湾入部には小規模な沖積平野が発達している(千田ほか,1984).当該地域における沖積層研究は,近年,オールコア堆積物の解析や多数の14C年代測定値に基づいて行われ始めたものの(丹羽ほか,2014など)が,いまだに事例が少ない.
本発表では,三陸海岸南部に位置する津谷平野において、震災復興工事で掘削された1本のコア堆積物の解析に基づいて、平野を構成する堆積物の特徴や年代を報告する.また,平野の埋積過程と近年の研究で示唆される三陸海岸南部の完新世の沈降傾向(丹羽ほか,2014など)との関係についても考察する。
コア堆積物は,下位から貝化石を含まない砂礫層を主体とする河川堆積物 (ユニット1),細粒砂からシルト層へと上方細粒化する河口~浅海堆積物 (ユニット2),海生の貝化石や珪藻化石を含み,シルト層~細粒砂層へと上方粗粒化を示す浅海堆積物 (ユニット3),細粒~中粒砂層から構成され,潮間帯~内湾砂底に生息する貝化石および植物片を含む浅海堆積物 (ユニット4),中礫や細礫を含む砂礫層から細粒砂層から構成され潮間帯~内湾砂底に生息する貝を含む,分流路あるいは河口州堆積物 (ユニット5)に区分される.合計12点の14C年代測定値に基づくと,堆積速度は, ユニット2から3にかけて (9,000 cal BP~7,100 cal BP) 約2~20 mm/yr,ユニット4において (4,080 cal BP~2,800 cal BP) 約1 mm/yr,ユニット4上部からユニット5 (2,800 cal BP以降) では3~5 mm/yrとなる。7,100 cal BPから4,080 cal BPにかけての堆積速度の詳細は不明である。
ユニット2堆積時における大きい堆積速度は,後氷期の海水準上昇によって,堆積中心が陸側に移動したためと解釈される。ユニット3でも引き続き大きい堆積速度が認められる原因としては,コア掘削地点の上流側に狭窄部を挟んで小盆地が見られることや津谷平野が外洋に面し,土砂供給源となり得る海食崖が平野のすぐ北側に認められることを踏まえると,引き続く海水準上昇によって堆積中心が上流側に移動した後も外洋側からの土砂供給を受けた可能性が考えられる。
ユニット4は,ユニット3堆積後に海進から海退に転じ,陸側からの堆積物供給の影響が強まったことによって堆積したと考えられる。すなわち,ユニット4はエスチュアリーの湾奥に形成されたデルタの堆積物と解釈される。さらに,湾奥デルタ堆積物を覆うユニット5(分流路または河口州堆積物)はデルタプレイン堆積物となる。
ユニット3の堆積環境から想定される同ユニット堆積時の海進は,コア掘削地点のすぐ上流側に小盆地があり,上流からの供給土砂が小盆地でトラップされやすかったこと,および,三陸海岸南部の完新世における沈降傾向(丹羽ほか,2014など)によって相対的海水準上昇速度の低下が顕著でなかったと考えることで説明可能である。
また,相対的海水準が千年オーダーで現在も上昇し続けている地域では,河川からの土砂の多くがデルタプレイン上で堆積する(堀・斎藤,2003)ことを踏まえると,湾奥デルタ堆積物 (ユニット4) で堆積速度が小さく,デルタプレイン堆積物 (ユニット5) で堆積速度が大きいのは,相対的海水準が千年オーダーで現在も上昇し続けていることを反映している可能性があり,このこともまた,三陸海岸南部における完新世の沈降傾向 (丹羽ほか,2014など) と整合する。
文献:千田ほか(1984) 東北地理,36,232 – 239.丹羽ほか(2014) 第四紀研究,53,311 – 312.
本発表では,三陸海岸南部に位置する津谷平野において、震災復興工事で掘削された1本のコア堆積物の解析に基づいて、平野を構成する堆積物の特徴や年代を報告する.また,平野の埋積過程と近年の研究で示唆される三陸海岸南部の完新世の沈降傾向(丹羽ほか,2014など)との関係についても考察する。
コア堆積物は,下位から貝化石を含まない砂礫層を主体とする河川堆積物 (ユニット1),細粒砂からシルト層へと上方細粒化する河口~浅海堆積物 (ユニット2),海生の貝化石や珪藻化石を含み,シルト層~細粒砂層へと上方粗粒化を示す浅海堆積物 (ユニット3),細粒~中粒砂層から構成され,潮間帯~内湾砂底に生息する貝化石および植物片を含む浅海堆積物 (ユニット4),中礫や細礫を含む砂礫層から細粒砂層から構成され潮間帯~内湾砂底に生息する貝を含む,分流路あるいは河口州堆積物 (ユニット5)に区分される.合計12点の14C年代測定値に基づくと,堆積速度は, ユニット2から3にかけて (9,000 cal BP~7,100 cal BP) 約2~20 mm/yr,ユニット4において (4,080 cal BP~2,800 cal BP) 約1 mm/yr,ユニット4上部からユニット5 (2,800 cal BP以降) では3~5 mm/yrとなる。7,100 cal BPから4,080 cal BPにかけての堆積速度の詳細は不明である。
ユニット2堆積時における大きい堆積速度は,後氷期の海水準上昇によって,堆積中心が陸側に移動したためと解釈される。ユニット3でも引き続き大きい堆積速度が認められる原因としては,コア掘削地点の上流側に狭窄部を挟んで小盆地が見られることや津谷平野が外洋に面し,土砂供給源となり得る海食崖が平野のすぐ北側に認められることを踏まえると,引き続く海水準上昇によって堆積中心が上流側に移動した後も外洋側からの土砂供給を受けた可能性が考えられる。
ユニット4は,ユニット3堆積後に海進から海退に転じ,陸側からの堆積物供給の影響が強まったことによって堆積したと考えられる。すなわち,ユニット4はエスチュアリーの湾奥に形成されたデルタの堆積物と解釈される。さらに,湾奥デルタ堆積物を覆うユニット5(分流路または河口州堆積物)はデルタプレイン堆積物となる。
ユニット3の堆積環境から想定される同ユニット堆積時の海進は,コア掘削地点のすぐ上流側に小盆地があり,上流からの供給土砂が小盆地でトラップされやすかったこと,および,三陸海岸南部の完新世における沈降傾向(丹羽ほか,2014など)によって相対的海水準上昇速度の低下が顕著でなかったと考えることで説明可能である。
また,相対的海水準が千年オーダーで現在も上昇し続けている地域では,河川からの土砂の多くがデルタプレイン上で堆積する(堀・斎藤,2003)ことを踏まえると,湾奥デルタ堆積物 (ユニット4) で堆積速度が小さく,デルタプレイン堆積物 (ユニット5) で堆積速度が大きいのは,相対的海水準が千年オーダーで現在も上昇し続けていることを反映している可能性があり,このこともまた,三陸海岸南部における完新世の沈降傾向 (丹羽ほか,2014など) と整合する。
文献:千田ほか(1984) 東北地理,36,232 – 239.丹羽ほか(2014) 第四紀研究,53,311 – 312.