日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR15] ヒト-環境系の時系列ダイナミクス

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、水野 清秀(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質情報研究部門)、米田 穣(東京大学総合研究博物館)

15:30 〜 16:45

[HQR15-P11] 遺跡立地とボーリングコア堆積物からみたエジプトナイルデルタ北西部イドゥク湖周辺における完新世地形発達史

*西川 瑛海1春山 成子2須貝 俊彦1 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科、2.三重大学大学院生物資源学研究科)

キーワード:エジプト、ナイルデルタ、遺跡、ボーリングコア、完新世、微地形

1. 背景・目的
エジプト北東部のナイルデルタは、大河川ナイル川の河口に作られた、世界を代表するメガデル タのひとつである。低平な堆積地形であるこのデルタの形成は、後氷期の海水準上昇による堆積空 間の形成速度が低下し、河川からの土砂供給がそれを上回った約 7,000 年前頃から始まったと指摘 されている(Stanley and Warne, 1994)。ただしナイルデルタは、デルタ堆積物の圧密沈降などの 影響を受け、1000 年オーダーで現在でも海水準が上昇し続けている(Warne and Stanley, 1993)。 そのため波浪が卓越し、海岸線と平行に浜堤や大規模なラグーンなど海進期特有の地形が分布して いる。また、乾燥帯の砂漠気候に属し、風成作用も卓越している。このように、デルタ表面の微地形は、洪水堆積物(河成)、ラグーン堆積物(海成)、砂丘砂(風成)が重なった複雑な地形で構成 されている。
デルタ北部は既存研究で数多くのボーリングコアが掘削され、デルタの地形環境変化について多 くのことがわかっている(Stanley and Warne, 1993 など)。しかし、対象地域が広大なため、古 環境変遷史像の時間・空間分解能は必ずしも高くない。地形変化が著しく多様な堆積作用が重なっ たナイルデルタでは、高分解能による微地形の調査が必要とされる。
本研究では、対象をイドゥク湖南東域に絞り、カイロ大学が現地カウンターパートとなって 2012 年に掘削された 3 本のボーリングコアの解析を中心に、微高地にある遺跡の立地をふまえた堆積物 供給源の追求、古環境の復元を試みる。
2. 研究対象地・研究方法
本研究の対象地は、ナイルデルタ北西部、ナイル川2大支流のひとつであるラシード支流の東部 に位置するイドゥク湖周辺の地域である。イドク湖南域の低地には、ローマ時代の遺跡コーム・ア ルディバーがあり、南北に並ぶ 2 つの平頂な微高地上に立地している。本研究ではコーム・アルデ ィバーを含むイドゥク湖近辺を衛星写真判読により地形分類し、ボーリングコア試料の分析を行い、 さらにコア掘削地とコーム・アルディバーの現地踏査を行った。コア試料は、堆積環境推定のため、 肉眼観察、土色値測定、帯磁率測定、粒度分析、元素分析を行った。また、堆積年代推定のため、 コア中から得られた貝化石を用いて放射性炭素年代測定を行った。
3. 結果・考察
コーム・アルディバーの地形・地質
露頭観察およびサンプル試料の帯磁率測定と粒度分析により、南北 2 つの微高地はどちらも淘汰 の良い中~細粒砂を主体とした風成砂丘であることが示唆された。また、南側の微高地の東面には、 洪水堆積物とみられる砂層とシルト層の互層が堆積していた。
イドゥク湖周辺の地形環境変遷
現在のイドゥク湖水面北東端付近の陸地で掘削されたボーリングコアについて詳細に観察・分析 を行った結果、コア下部よりA, B, Cの3つの堆積ステージに分けることができた。放射性炭素年代測定の結果から、ステージ境界年代をA-B境界:3000~4000年前、B-C境界:1500~2000年前とし、古地図 および既存研究による広域復元図を参考に、対象地における各時代の古地理を復元した。
A:イドゥク湖は地中海の湾であった。波浪・海進による浜堤堆積物のラグーンへの流入、もし くは、ナイル川の洪水による氾濫堆積物の流入がくり返し生じうる堆積環境であった。(シルト層 中への砂層流入とそれに伴う元素変動)
B:デルタ堆積物の沈降によりラグーンが拡大し、洪水による氾濫範囲は縮小した。(砂層流入頻 度の減少と元素変動幅の低下)
C:沿岸流によりラシード支流河口から南西方向に砂嘴が発達し、湾が閉塞し、イドゥク湖が形 成された。(硫黄濃度の低下)→以降イドゥク湖縮小。
[引用文献]
Stanley, D.J. and Warne, A.G. (1993): Nile Delta: Recent Geological Evolution and Human Impact. Science, 260: 628-634.
Stanley, D.J. and Warne, A.G. (1994): Worldwide Initiation of Holocene Marine Deltas by Deceleration of Sea-Level Rise. Science, 265: 228-231.
Warne, A.G. and Stanley, D.J. (1993): Archaeology to refine Holocene subsidence rates along the Nile delta margin, Egypt. Geology, 21: 715-718.