日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE20] 地球温暖化防止と地学(CO2地中貯留・有効利用,地球工学)

2016年5月24日(火) 13:45 〜 15:15 301B (3F)

コンビーナ:*徳永 朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻)、薛 自求(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)、徂徠 正夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、座長:徂徠 正夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)

15:00 〜 15:15

[HRE20-11] 地層水生産によるCO2貯留層内圧力上昇の抑制に関する数値解析検討

*藤田 クラウディア1平塚 裕介1山本 肇1中島 崇裕2薛 自求2 (1.大成建設株式会社、2.公益財団法人地球環境産業技術研究機構)

キーワード:二酸化炭素の回収貯留、圧力上昇、地層水生産

二酸化炭素の回収貯留(CCS)を大規模に適用する上での大きな問題の一つとして、CO2を圧入時の貯留層内圧力の上昇がある。圧力上昇が大きいと、必要なレートでの継続的な圧入が困難になるだけでなく、周辺の断層の活動に影響を与える可能性も指摘されている。
本研究では、CO2の圧入による圧力上昇を減少する方法としてBusheckら(2014)が提案した圧入開始前に地下水を揚水することにより予め貯留層圧を低減する手法(デュアルモード坑井)および圧入と同時に別の井戸にて揚水する手法を検討した。数値解析コードとしてはTOUGH2、アメリカLawrence Berkeley National Laboratory(LBNL)で開発された多成分・多相流体と熱流動の数値解析コードを用いた。
ケーススタディーとして、苫小牧市で実施中の大規模CCSプロジェクトでの
圧入対象層に相当する簡易モデルを作成し、様々な揚水・圧入レート、貯留層の体積および揚水井と圧入井の位置関係の影響を検討した。
3つの体積が異なるモデル(15 km x 8 km x 100m, 24 km x 24 km x 100 m, 5 km x 5 km x 100 m)を作成し、各々について揚水・圧入レートを変えた2ケース(200 kt/年、1 Mt/年)を検討した。ケース1は基本ケースであり、地層水生産無しでCO2を圧入するケースである。ケース2では圧入開始に先立って3年間あるいは5年間地層水を生産してからCO2を圧入する。最後にケース3ではCO2を圧入と同時に別の井戸から地層水を生産する。ケース3では井戸の適切な位置関係も検討した。なお、CO2の圧入期間は100年間とした。
地層水生産のない基本ケースとケース2の結果を比較すると、事前の生産により貯留層内の圧力低下が得られるが、生産終了後の地下水圧の回復が早く、圧力抑制効果は、当初数年後程度に限られた。ただし、貯留層の体積が小さくなれば圧力抑制の効果は高くなる。
圧入と生産を同時に行う手法(ケース3)は、全圧入期間にわたって圧力をほとんど一定に保つことができ、継続的かつ安定した圧力抑制効果が得られることが分かった。
以上のように、圧入開始前に地層水生産をする手法(デュアルモード坑井)あるいは圧入と揚水を同時に行う手法により、CO2圧入時の貯留層圧力上昇を抑制することが可能である。これらの手法を用いることで、貯留層内の圧力上昇による圧入レートの維持のみならず周辺への影響を減少することができる。CO2貯蔵容量を増やすことができ、CCSの対象サイトの選択肢を増やす上で役立つと考えられる。
地層水生産の効果は、貯留層の地質条件や特性に大きく依存する。今回の結果は、苫小牧地点を対象とした簡易的な事前検討であり、今後、新たなデータを加えた検討が必要である。