日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE20] 地球温暖化防止と地学(CO2地中貯留・有効利用,地球工学)

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*徳永 朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻)、薛 自求(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)、徂徠 正夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)

17:15 〜 18:30

[HRE20-P05] 水銀圧入法および直接法による超臨界CO2スレッショルド圧力の評価

*木山 保1薛 自求1 (1.公益財団法人地球環境産業技術研究機構)

キーワード:水銀圧入法、超臨界CO2、スレッショルド圧力、段階昇圧法、残差圧力法、バイモーダル

CCSにおいて遮蔽層のスレッショルド圧は貯留層のCO2貯留能力を支配するので,スレッショルド圧の正しい評価はCO2地中貯留を安全かつ経済的に設計し実施するために重要である。スレッショルド圧は,ブラインで飽和した多孔質岩石に超臨界CO2が浸入する際の毛管圧に起因するので,細孔径分布,接触角および界面張力などに支配される。本論では新第三紀泥質岩を対象とし,まず細孔径分布を水銀圧入法で分析した。接触角および界面張力を設定し,特徴的な細孔径と毛管圧の関係を検討した。つぎにコア試料を用いて,段階昇圧法,残差圧力法などの直接法でスレッショルド圧を測定した。CCSの原位置条件を考慮して,間隙圧は10MPa,温度は40℃とした。試料は,直径50mm,長さ50mmで,両端面から10mmの位置に周方向にひずみゲージを貼付した。
段階昇圧法の事例を図示する。事前に残差圧力法で測定し,その後十分通水して初期状態に戻し,段階昇圧法に供した。残差圧力法で0.60MPaのスレッショルド圧が評価されたので,初期の差圧を0.3MPaから始め,その後0.1MPaずつ段階昇圧した。図中A点で排出流量が停止し,超臨界CO2が試料の端面に到達したことを示唆する。B点でわずかな排出流量の増加が確認された。段階昇圧法の定義に従って1つ前のステップの差圧をスレッショルド圧とすると0.71MPaとなる。しかしその後差圧が増加しても流量の増加は認められない。つぎにC点において排出流量の明らかな増加が確認され,その後差圧が増加するのに伴って流量も増加した。ここでスレッショルド圧は1.64MPaと評価される。注入側のひずみ挙動を見ると,わずかな流量が発生したB点でわずかな膨張が認められ,流量が増大したC点で顕著な膨張が認められる。超臨界CO2とブラインの境界では毛管圧が作用して超臨界CO2側の圧力が高くなるので,超臨界CO2が浸入した領域では間隙圧が高くなり,膨張変形をもたらす。
水銀圧入法の結果,細孔径分布は0.09μmと0.16μmにピークを持つバイモーダルな特性を示した。毛管圧Pcは,細孔径D,界面張力γおよび接触角θでつぎのように表される。
Pc=4γcosθ/D
ここで,40℃,10MPaにおけるブラインと超臨界CO2の界面張力γを28.5 mN/m,接触角θを0°と設定すると,上記の2つの細孔径に対応する毛管圧はそれぞれ1.27MPaおよび0.71MPaとなる。
残差圧力法による0.6MPaと段階昇圧法でわずかな流動が認められた0.71MPaは,0.16μmの細孔径に対応する毛管圧0.71MPaと良い一致を示した。また段階昇圧法で明らかに流量が増加した1.65MPaは,0.09μmの細孔径に対応する毛管圧1.27MPaに近い値を示した。
段階昇圧法におけるわずかな流動は径が0.16μmの細孔に超臨界CO2が浸入するスレッショルド圧に,流量の明瞭な増加は径が0.09μmの細孔に超臨界CO2が浸入するスレッショルド圧に対応すると考えると調和的である。一方,わずかな流動が発生してから,その後ほとんど流量が増加しなかったのは,細孔の容積,配向および連続性などの構造が関係していると考えられるが,これらの情報は等方的に水銀を圧入する水銀圧入法では得られない。たとえば,層構造を成す岩石の場合,コア試験では層に平行と直交でスレッショルド圧は一般に異なるが,水銀圧入法では同じ情報しか得られない。
残差圧力法は段階昇圧法などに比較してスレッショルド圧を過小評価しやすいといわれ,その一因として排水と浸潤過程で接触角が異なることなどが提案されている。本事例では0.16μmのモード径に対応する毛管圧が残差圧力法の結果に一致しているが,流動を停止して圧力の平衡を観測する残差圧力法ではわずかな流体の移動で圧力が伝播するので,段階昇圧法では流量が少なかった低い圧力でも,残差圧力法では毛管圧に漸近していくことが考えられる。
細孔径分布がバイモーダルを示さない岩石でも,淘汰が低い場合は大きい細孔径に対応する低い毛管圧で超臨界CO2の浸入は開始し,残差圧力法では低いスレッショルド圧を示すが,段階昇圧法などではモード径に対応する比較的高い圧力で流量が増加すると考えられる。
水銀圧入法で分析される細孔分布特性はスレッショルド圧を評価する上で有益な情報を多く提供する。残差圧力法による結果の妥当性などに寄与することができる。一方,異方性などには対応できない。また,どの毛管圧で流量が増加するかは評価できないため,段階昇圧法などのコアを用いた直接法を省略することはできない。
謝辞:本研究は,経済産業省委託事業「二酸化炭素回収貯蔵安全性評価技術開発事業」の一環として行われた。