日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC16] 人間環境と災害リスク

2016年5月23日(月) 10:45 〜 11:30 105 (1F)

コンビーナ:*青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、松多 信尚(岡山大学大学院教育学研究科)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、座長:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)

11:00 〜 11:15

[HSC16-07] 積丹半島の活構造-原子力規制委員会による不適切な評価

*渡辺 満久1 (1.東洋大学社会学部)

キーワード:変動地形、海底活断層、積丹半島、泊原子力発電所、原子力規制委員会、安全審査

1 はじめに
発表者はこれまでに、「福島」以前の杜撰な審査を繰り返さずに原子力関連施設の安全性が確保されることを願い、原子力施設の再稼働の前提となる新規制基準適合性に係わる審査に対しいくつかの具体的提言を行ってきた(渡辺ほか、2013;渡辺・中田、2014)。ところが、最近の北海道泊原子力発電所の審査における、原子力規制委員会(以下、規制委員会)の姿勢には大きな疑問を感じている。本報告では、積丹半島の活構造を総括し、規制委員会による審査の問題点を指摘する。本研究では、平成25~27年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)の一部を使用した。
2 積丹半島の活構造(渡辺・鈴木、2015;渡辺、2015a;2015b;北電、2013、2014)
積丹半島西方断層は神威海脚の西縁から神恵内西方まで約60 km連続し、比高数100 mの凸型斜面(撓曲崖)を形成している。撓曲崖基部には新しい地すべり地形が多数見られ、最近も斜面が不安定になったことがわかる。北電による音波探査の結果にも、いくつかの断層構造が確認される。規制委員会は、明瞭な断層構造が確認できないことを理由に活断層の存在を否定しているようである。しかし、上述したように断層構造は確認されている。そもそも、十分な変動地形学的検証なしに音波探査結果だけで活断層の存在を否定してはならないことは、2007年中越沖地震で学習したはずである。
積丹半島南西岸では、MIS 5eの海成段丘面が30 m程度の高度にあり、高度の異なるノッチや離水ベンチが存在しているため、間欠的隆起が繰り返されていることが強く示唆される。一方、北東岸では、海成段丘面は分布しておらず、離水ベンチもほとんど認められない。このような変動地形学的コントラストは非常に明瞭であり、両地域の地形発達が同じであるとは到底考えられない。これらの特徴は、積丹半島西方断層の活動で統一的に説明できる。規制委員会は、このような地形学的特徴の違いをまったく考慮していない。また、積丹半島全域が定常的かつ一様に隆起していると結論しているが、本当にそのような地殻変動が継続しているかどうかの検証はまったく行われていない。
規制委員会は、半島南西岸の海成段丘面(MIS 5e)の旧汀線高度はほぼ一定であるとした。しかし実際には、その旧汀線高度は一定ではなく、10 km程度の区間で10 m程度の高度差がある。これは、それほど本質的な問題ではないが、このような事実誤認があることも問題である。また、神恵内付近における旧汀線高度の急変に関しても、合理的な説明はなされていない。これらの問題に関して、2015年度活断層学会で報告したところ、当時の審査担当者から「北電から満足のゆく回答はまだなく、結論はでていない」というコメントがあった。その内容は、規制委員会の結論とはまったく異なるものであり、審査の進め方などに大きな疑問を感ずる。
MIS 9以降、積丹半島南西岸は等速度で隆起していると考えられ、中新統は南西側へ撓曲している。泊原子力発電所は、MIS 9に形成された海成段丘面を掘削して建設されており、撓曲する中新統には複数の層面すべり断層がある。これらの断層が後期更新世に活動していないと断言できる証拠はない。MIS 9以降の一様な隆起運動を考えれば、今後も動きうる断層として評価すべきである。
規制委員会は、南方の岩内平野では中新統~前期更新統の撓曲構造が前期-中期更新統の「岩内層」に覆われており、後期更新世には成長していないとした。しかし、前期-中期更新統の傾斜は、発電所近傍では12~13度であるのに対し南方の岩内平野では3~4度程度であり、岩内平野では変形の程度が小さい。泊原子力発電所直下の構造を、離れた地域で検証することはむつかしい。また、岩内平野の「岩内層」は、前期-中期更新統ではなく、MIS 5eの海成層である可能性が高く、1度程度傾斜している可能性がある。以上を考慮すれば、敷地内の撓曲が活構造であることは否定できず、重要構造物直下にcapable faultが存在する可能性がある。
3 規制委員会の評価への批判
規制委員会は、積丹半島の変動地形学的特徴を誤認し、積丹半島西方断層の上盤の敷地内断層の活動性に関しても正しく評価していない。規制委員会は、新規制基準に基づく安全審査を実施しておらず、事業者の調査結果を鵜呑みにして「総合的におおむね妥当」と判断している。審査ガイドに明記された厳格な審査に違背した評価であり、「過去の形式的で杜撰な審査は見直し、事業者よりの専門家が関与した非科学的な審査結果は一掃しなければならない」と批判された、保安院時代のものと同質のものである。すべては、3・11以前に戻った。
【文献】
北電、2013。20131003_02shiryo_01.pfd。北電、2014、20150529-000108711.pdf。渡辺ほか、2013、活断層学会秋季大会。渡辺・中田、2014、地理学会2014年度春季学術大会。渡辺・鈴木、2015、科学、85。渡辺、2015a、地理学会2015年度秋季学術大会。渡辺、2015b、活断層学会2015年度大会。