日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT21] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2016年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 101A (1F)

コンビーナ:*陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、座長:中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)

11:00 〜 11:15

[HTT21-02] 大気エアロゾルのSr-Pb同位体比の季節変化に基づく大気汚染物質の起源推定

*加藤 祥生1松木 篤2SHIN Ki-Cheol3中野 孝教3 (1.金沢大学大学院自然科学研究科、2.金沢大学環日本海域環境研究センター、3.総合地球環境学研究所)

キーワード:エアロゾル、Sr-Pb同位体、越境汚染

【はじめに】日本はアジア大陸の風下に位置し、大陸からの越境大気汚染への懸念が高まっているが、その実態は依然として未解明である。近年の我々の観測や先行研究 (Kaneyasu et al., 2011; Takami et al., 2013) により、太平洋高気圧の影響等により大陸からの影響が相対的に弱まると考えられる夏季においても、汚染物質が長距離輸送される事例が報告されている。したがって、大陸からの越境大気汚染の影響が大きいとされる春季や冬季だけでなく、その他の季節における大気質の変化にも注目する必要がある。しかし、日本国内においても大気エアロゾルの排出源は多種多様 (e.g. ゴミ焼却、火山噴火) であり、アジア大陸と日本国内を起源とする大気汚染物質の識別は難しい。そこで本研究では、大気エアロゾル中のSr-Pb同位体比測定を行うことにより、石川県能登半島に飛来する大気エアロゾルの季節的特徴とその起源の解明を試みた。
【試料・測定方法】大気エアロゾル試料は、能登半島先端に位置する石川県珠洲市の金沢大学大気観測スーパーサイト(通称: NOTOGRO)で採取した。試料採取には、流量を700 L/minに設定したハイボリュームエアーサンプラー (AH-600F, SHIBATA) を使用し、石英フィルター (12.6×16.6 cm) 上に採取した。採取期間はそれぞれ一週間とし、インパクターにより、大気エアロゾルの粒径が2.5 µmよりも大きくなるように分級して採取した。採取試料は、5%酢酸溶液を用いて溶解させた弱酸可溶性物質(水や弱酸に溶解する海塩や石膏、方解石、気相反応による粒子表面の吸着体)と、その残渣をHNO3-HF-HClにより溶解させた難溶性物質(石英や粘土鉱物、長石などのケイ酸塩鉱物)に分け、それぞれについてSr-Pb同位体比測定を行った。
【結果と考察】酢酸可溶性物質は低い87Sr/86Srを示した。NOTOGROは周囲が海で囲まれているため、弱酸可溶性物質は海塩粒子 (87Sr/86Sr = 0.70918) の影響を大きく受けていると考えられる。一方で、難溶性物質は高87Sr/86Sr を示し、2014年7月中旬の試料は特に高い87Sr/86Srを示した。これは大陸由来の土壌粒子による影響と考えられる。弱酸可溶性物質のうち、2015年春季の試料の多くは中国由来の大気エアロゾルと良く似たPb同位体比を示した。また、V/Mn比をそれぞれの試料について求めた。V/Mn比は低い値ほど石炭燃焼を、高い値ほど石油燃焼の指標となる。中国Pb同位体比と近似している試料ほど、石炭燃焼由来の低いV/Mn比を示した。これらの結果から、能登半島では2015年春季に中国からの石炭燃焼由来のPbの影響を受けていたと考えられる。