日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT21] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2016年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 101A (1F)

コンビーナ:*陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、座長:中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)

11:45 〜 12:00

[HTT21-05] マルチトレーサを用いた扇状地地下水の流動と形成機構に関する研究

★招待講演

*吉岡 有美1中村 公人2中野 孝教3堀野 治彦4申 基澈3 (1.鳥取大学、2.京都大学、3.総合地球環境学研究所、4.大阪府立大学)

キーワード:Sr同位体比、水田、伏没・還元現象

石川県手取川扇状地(140km2)には豊富な地下水が存在し、主に工業・水道用水として盛んに利用されている。この地下水資源の持続的な利用・保全を考える上では、地域固有の地下水涵養や地下水流動系を把握することが必要となる。とくに、本対象地においては、扇状地河川と周辺の浅層地下水との水交換現象(伏没・還元現象)や扇状地の50 %以上を占める水田からの浸透水の影響について注目しなければならない。本研究では、地下水と地表水(河川水と田面水)についてマルチトレーサの分布特性から、浅層地下水の流動譲許や水質形成メカニズムを解明することを目的とした。水質分析の結果と別途行った地下水位一斉観測、手取川流量観測、3次元定常地下水流動解析の水文観測結果との整合性を検証した。
扇状地内の地下水63地点、湧水2地点,扇状地南部の手取川、扇状地北部の犀川の河川水13地点、田面水5地点の計83地点の水試料を2011年6月の灌漑期間中に得た。分析項目は、酸素・水素安定同位体比(δ18O、δ2H)、ストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)、溶存イオン、微量元素である。
浅層地下水のδ18O及びδ2Hは、手取川に近い領域で低く、手取川から遠い領域では高くなる分布特性を示し、手取川から安定同位体比の低い水の地下水への浸透が生じていると考えられる。その一方でδ18O、δ2Hからは、蒸発の影響を強く受けた田面水による地下水涵養がほとんど生じていないことが確認された。浅層地下水のMg2+、Ca2+、Sr2+、HCO3-、SO42-についても、河川水の希釈効果を受ける手取川付近と水田面積率が低い犀川付近で濃度が低く、扇状地中央部で値が高くなる分布傾向がみられた。
浅層地下水の87Sr/86Srは、手取川に近い領域では扇状地性の堆積物の影響を受けて高い値を示す一方で、犀川付近では低い値であった。手取川の河川水は上流域の地質の影響を受けて高い値を示した。全ての同位体比の分布傾向から、手取川からの浸透水の影響は扇状地右岸域の中央までの範囲に及ぶことがわかった。87Sr/86Srは、Mg2+、Ca2+、Sr2+濃度との間でそれぞれ正の相関関係を示した。地表面から浸透する過程で土壌からの溶出の影響を受けた降水や田面水が、手取川から涵養された河川水と混合することによって地下水水質が形成されていると推察された。
今回の水質観測結果は、地下水位一斉観測から得られた地下水位コンターの特徴、手取川流量観測から推定された伏没・還元区間、灌漑期定常状態の3次元地下水流動解析から推定された地下水流動の結果と整合性を示した。