日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT21] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)

17:15 〜 18:30

[HTT21-P08] 国内2森林集水域におけるストロンチウム同位体比の年間及び垂直変動

*齋藤 辰善1,2山下 尚之1諸橋 将雪1猪股 弥生1内山 重輝1中田 誠2中野 孝教3陀安 一郎3申 基澈3大泉 毅1佐瀬 裕之1 (1.アジア大気汚染研究センター、2.新潟大学、3.総合地球環境学研究所)

キーワード:ストロンチウム同位体比、降水、渓流水

[緒言]
硫黄のような軽元素の場合、生態系内で植物に利用される際、軽い同位体の方が重い同位体よりも取り込まれやすく、同位体分別が生じ、同位体比が変動する。一方、ストロンチウム(Sr)のような重元素では、このような同位体分別はほぼ無視できるレベルであり、異なるソースの成分混合によってのみ同位体比が変動する。このため、生態系内の複数のソースが、それぞれどのように寄与しあっているかを推定するには、同位体分別の影響を受けにくい元素が適していると考えられる。本研究では、新潟県新発田市加治川及び岐阜県山県市伊自良湖の2森林集水域で得られた、Sr同位体比の年間及び垂直変動のデータについて論じる。
[方法]
それぞれの集水域において、林外雨、渓流水及び斜面土壌中の土壌溶液を採取し、2013年12月以降の試料についてSr同位体比の測定を行った。なお、土壌溶液は斜面上部、中部及び下部の3地点について、それぞれ深度20 cm に加え、可能であれば深度60 cmについても採取した。Sr同位体比は、総合地球環境学研究所(京都府京都市)所有の、表面電離型質量分析装置(TIMS: Thermal Ionization Mass Spectrometry)を用いて測定し、標準物質としてNBS987を用いて算出した87Sr/86Srとして示す。
[結果及び考察]
図に両集水域における87Sr/86Srの測定結果を示す。まず、流入側の林外雨について見ると、流出側の渓流水に比べ年間の変動幅が大きく、加治川集水域では、黄砂の飛来量が増える春季、次いで季節風により海塩及び大陸由来のSrの沈着量が増える冬季の順に高い値を示している。これらの同位体比変動には、異なる起源からの寄与がよく現れており、海塩の寄与が高くなる冬季には、海水の87Sr/86Sr約0.709に近い値となり、春季は大陸由来のダストに含まれる可溶性鉱物(87Sr/86Sr:0.711±0.001)のため、冬季より高い値となっているものと考えられる。一方、流出側の渓流水では、年間を通じて非常に安定した値となっており、両集水域ともに林外雨とは大きく異なる値であった。降水に比べて渓流水のSr濃度は一桁程度高く、カルシウムやマグネシウムとの相関も良い。また、花崗岩が多い加治川集水域の渓流水に対して、中古生代の海生堆積岩が分布する伊自良湖集水域の渓流水は高い87Sr/86Srを示した。これらのことから、両集水域において渓流へと流出しているSrは、大気沈着由来以外、おそらく地質由来のものが大部分を占めているものと考えられる。
なお、本発表では土壌溶液を含めた垂直変動及び硫黄(S)同位体比との比較についても論じる。
[謝辞]
本研究で示すデータは、環境省越境大気汚染・酸性雨長期モニタリングにより得られたものである。また、Sr同位体比測定は、総合地球環境学研究所の同位体環境学共同研究事業により実施し、S同位体比測定は、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(Asia Pacific Network on Global change Research, APN: ARCP2013-13CMY-Sase)の支援により実施した。関係機関の方々に謝意を表します。