17:15 〜 18:30
[HTT21-P10] 浅間火山年縞トゥファの酸素・炭素同位体組成に記録される古気候・イベント情報の評価
キーワード:トゥファ、安定同位体、火山
トゥファは方解石を主体とした縞状堆積物であり、その縞状構造は年間降水量や平均気温を反映した年縞からなることから、高時間分解能で古環境を復元できるものとして注目されている。トゥファの酸素・炭素同位体組成に関する研究はこれまで数多く行われており(例えば、Matsuoka et al. 2000)、それらの変動は水温の季節変動やそれによる脱ガス効果を反映するものとみなされている。一方で、δ18Oやδ13Cの変動幅や絶対値については、必ずしも理論値と一致するものではなく、これまでに多くの検討がなされている(例えば、Yan et al. 2012)。本研究では、活火山地帯で初めて発見された浅間火山の年縞トゥファ方解石に関して、そのδ18Oやδ13Cに記録される古気候情報の評価を行なった。
トゥファ同位体組成分析は、2012年に採取した濁川河床の現生トゥファが用いられた。まず、マイクロドリルを用いて、0.1 mm間隔、深さ0.1 mmで分取した。これらの試料のδ18Oとδ13Cを炭酸塩前処理装置付同位体比質量分析計(Delta V + GasBench II、総合地球環境学研究所既設)を用いて測定した.δ13CはDelta Plus、δ18OはCO2-H2O平衡法を用いて分析を行った。DICの化学種(CO2, HCO3-, CO32-)の割合とそれらのδ13C同位体分別効果の計算は、CO2SYS (Lewis and Wallace, 1998)が用いられた。
トゥファのδ18Oとδ13Cは共に、明瞭な季節変動を示し(r=0.71)、Mgに富む夏季の縞では相対的に低い値を、Mnに富む冬季の縞では高い値を示す。河川水δ18OWが年間を通じて源泉とトゥファ堆積場で差が見られないことから、トゥファδ18OCの変動は水温効果で生じている(δ18OC - δ18OW = -0.0051T + 3.2509; R = 0.75)。河川水δ13CDICは、アルカリ度、pH、水温から推定されるDIC変動と同調(r = 0.64)しながら季節変動する。DICの98%はHCO3-からなり、方解石の沈殿にはHCO3-が寄与する。これらのことから、河川水δ13CDICの季節変動は、トゥファ方解石の沈殿に伴ってHCO3-が消費され、より多くの重い13Cが夏季に河川水中から除去されている。
トゥファδ13C変動の最大値と最小値の差は約0.5‰であるが、河川水δ13CDICから推定されるHCO3-起源の方解石(CaCO3)の理論値は約3.7‰であった(約7.4倍)。一方、δ18Oについてもトゥファδ18Oが約0.6‰であるのに対して理論値が約4.9‰であった(約8.1倍)。これらの原因は、以下の2つの効果で説明することができる。
Zheng (1999)にもとづくトゥファδ18Oから推定される平均水温は約17℃であったことから、トゥファ方解石の多くは夏季に形成されたものと見なされる(方解石の成長速度の不均一性)。このことは、トゥファ年縞の夏縞が針状方解石(層厚約1.0 mm)、冬の縞が微粒結晶(層厚約0.1 mm)で形成されることからも支持される。これに加えて、マイクロドリルで微小に変形した縞状構造を採取したことによって平均化が生じたと考えられる(サンプリングによる平滑化)。
トゥファδ13Cは2004年の晩夏(9月ごろ)に異常な減少値が認められた。この時期、浅間火山は21年ぶりの中規模噴火(9月1日~11月14日; 気象庁)が発生した。濁川の源泉から堆積場にかけての湧水は、火山性由来の低δ13C値(ガス起源のδ13C = -11~-9‰)を持つCO2からなる。その割合は、トゥファ堆積場周辺では湧水中の約50%が火山性由来のCO2とされる(鈴木・田瀬, 2010)。このため、トゥファδ13Cに見られた減少値のひとつの可能性として、火山活動に伴って、湧水からの火山性CO2の噴出量が増加し、河川δ13CDICさらにはトゥファδ13Cが一時的に減少した証拠と見なされる。
トゥファ同位体組成分析は、2012年に採取した濁川河床の現生トゥファが用いられた。まず、マイクロドリルを用いて、0.1 mm間隔、深さ0.1 mmで分取した。これらの試料のδ18Oとδ13Cを炭酸塩前処理装置付同位体比質量分析計(Delta V + GasBench II、総合地球環境学研究所既設)を用いて測定した.δ13CはDelta Plus、δ18OはCO2-H2O平衡法を用いて分析を行った。DICの化学種(CO2, HCO3-, CO32-)の割合とそれらのδ13C同位体分別効果の計算は、CO2SYS (Lewis and Wallace, 1998)が用いられた。
トゥファのδ18Oとδ13Cは共に、明瞭な季節変動を示し(r=0.71)、Mgに富む夏季の縞では相対的に低い値を、Mnに富む冬季の縞では高い値を示す。河川水δ18OWが年間を通じて源泉とトゥファ堆積場で差が見られないことから、トゥファδ18OCの変動は水温効果で生じている(δ18OC - δ18OW = -0.0051T + 3.2509; R = 0.75)。河川水δ13CDICは、アルカリ度、pH、水温から推定されるDIC変動と同調(r = 0.64)しながら季節変動する。DICの98%はHCO3-からなり、方解石の沈殿にはHCO3-が寄与する。これらのことから、河川水δ13CDICの季節変動は、トゥファ方解石の沈殿に伴ってHCO3-が消費され、より多くの重い13Cが夏季に河川水中から除去されている。
トゥファδ13C変動の最大値と最小値の差は約0.5‰であるが、河川水δ13CDICから推定されるHCO3-起源の方解石(CaCO3)の理論値は約3.7‰であった(約7.4倍)。一方、δ18Oについてもトゥファδ18Oが約0.6‰であるのに対して理論値が約4.9‰であった(約8.1倍)。これらの原因は、以下の2つの効果で説明することができる。
Zheng (1999)にもとづくトゥファδ18Oから推定される平均水温は約17℃であったことから、トゥファ方解石の多くは夏季に形成されたものと見なされる(方解石の成長速度の不均一性)。このことは、トゥファ年縞の夏縞が針状方解石(層厚約1.0 mm)、冬の縞が微粒結晶(層厚約0.1 mm)で形成されることからも支持される。これに加えて、マイクロドリルで微小に変形した縞状構造を採取したことによって平均化が生じたと考えられる(サンプリングによる平滑化)。
トゥファδ13Cは2004年の晩夏(9月ごろ)に異常な減少値が認められた。この時期、浅間火山は21年ぶりの中規模噴火(9月1日~11月14日; 気象庁)が発生した。濁川の源泉から堆積場にかけての湧水は、火山性由来の低δ13C値(ガス起源のδ13C = -11~-9‰)を持つCO2からなる。その割合は、トゥファ堆積場周辺では湧水中の約50%が火山性由来のCO2とされる(鈴木・田瀬, 2010)。このため、トゥファδ13Cに見られた減少値のひとつの可能性として、火山活動に伴って、湧水からの火山性CO2の噴出量が増加し、河川δ13CDICさらにはトゥファδ13Cが一時的に減少した証拠と見なされる。