日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT21] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)

17:15 〜 18:30

[HTT21-P13] 窒素飽和した森林からの流出に下流部の窒素負荷と河川勾配が与える影響

*篠塚 賢一1智和 正明1陀安 一郎2由水 千景2久米 篤1 (1.九州大学生物資源環境科学府環境農学専攻、2.総合地球環境学研究所)

キーワード:窒素飽和、河川水質、窒素同位体、土地利用、TI値

面的な汚染源からの窒素負荷が下流域へ与える影響は大きく、沿岸域などの富栄養化が問題になっている。福岡市近郊を流れる多々良川流域の上流の森林は窒素飽和状態の森林であり渓流水中の硝酸イオン濃度が高く、このような森林が下流部の窒素循環へ与える影響は大きい事が指摘されている(Chiwa et al., 2012)。その一方で、高濃度の渓流水が下流で他の窒素汚染源からさらに負荷を受けるのか、流下過程でどの程度脱窒が起きるのかといった流域全体の窒素動態についての情報は少ない。
本研究の目的は、上流部の森林からの高いNO3-流出がみられる河川において、河川周囲の土地利用が異なる場所のNO3-起原やNO3-利用のメカニズムの変化を解明することである。1) 上流部が窒素飽和状態の森林である河川における下流の窒素動態 2) 下流にある農地と市街地からの窒素流出の影響 3) 地形勾配の脱窒への影響の解明を目的とした。
調査対象河川は、多々良川水系の猪野川, 須恵川, 宇美川で河川水を採水しNO3-濃度, NO3-中のδ15NNO3, δ18ONO3の分析を行った。地形解析は、DEMデータからArcGISを用いてTopographic Index(TI)を作成して勾配の指標とした。
両河川ともに渓流水中のNO3-濃度は33.9-82.8µmol/Lとなり、他の窒素飽和になっていない森林渓流水と比較して高い傾向を示した。須恵川,宇美川では下流にかけてさらにNO3-濃度が上昇し、δ15NNO3は下流部にかけて高くなり、δ18ONO3は下流で低くなる傾向を示した。しかし、猪野川では下流へ行くとNO3-濃度が低下し、δ15NNO3は下流で高くなり、δ18ONO3は下流で高くなった。須恵川,宇美川は、下流で人為的な負荷を受けやすい河川であり、猪野川は農地と市街地が増加すると窒素濃度の低下が見られる河川であった。
須恵川,宇美川のNO3-濃度や同位体比には季節変化が見られなかった。また、δ15NNO3の値は6-13‰となり人為的な排水の影響が強いと考えられた。一方、猪野川では農地と市街地の面積が増加するとNO3-濃度は低下し、δ15NNO3とともにδ18ONO3は高くなり、脱窒の影響が示唆された。
NO3-濃度が大きく変化する農地と、市街地が増加する集水域におけるTI値の平均は、須恵川,宇美川と猪野川ではあまり違いがみられなかった。しかし、TI値の頻度分布では須恵川,宇美川と猪野川では異なっていた。TI値が高い場所は緩やかな場所であり湿潤な環境になりやすい、そのため猪野川は顕著に脱窒の影響を受けNO3-濃度が減少していると考えられた。さらに、猪野川では、人為的な負荷源となる農地と市街地が少なく脱窒が行われる場所が多い。そのため、猪野川では須恵川,宇美川とは異なり下流に行くと濃度が減少すると考えられた。
上流に窒素飽和状態の森林を持つ河川は下流への重要な窒素供給源となっているが、特に下流で勾配が急な河川では農地や市街地からの窒素の負荷の影響を受けやすく、勾配が緩やかな河川では農地や都市部が増加しても脱窒の影響が強く下流部への窒素負荷軽減に大きな影響を与えていると考えられた。