日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT22] UAVが拓く新しい世界

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、井上 公(防災科学技術研究所)、長谷川 均(国士舘大学文学部地理学教室)

17:15 〜 18:30

[HTT22-P06] 多時期近接空撮画像による水稲のフェノロジー観測と生育パラメーターの推定

*濱 侃1望月 篤2鶴岡 康夫2田中 圭3近藤 昭彦4 (1.千葉大学大学院理学研究科、2.千葉県農林総合研究センター、3.一般財団法人 日本地図センター、4.千葉大学 環境リモートセンシング研究センター)

キーワード:小型UAV、近接リモートセンシング、生育管理、SfM/MVS

1. はじめに
農作物の観測,例えば生育量観測において,衛星を使用した農業リモートセンシング技術は,現地における実測に比べて広範囲を非破壊かつ短時間で計測可能であり,大規模圃場を対象とする際は有効な手法となる1.しかし,これらの広域を対象とした観測は,雲量による観測確実性の低下,任意のタイミングでの観測が困難である点などが課題である.また,圃場内の生育の不均一性を問題とする際は,より空間分解能の高い観測が必要となる.そこで本研究では,圃場内で移植時期,品種,施肥量を変化させた水稲の生育観測について,電動マルチコプターをUnmanned Aerial Vehicle (UAV)として利用し,高時間・空間分解能の可視・近赤外光空撮画像の取得に基づくフェノロジー観測と生育パラメーターの推定を試みた.
2. 研究手法
千葉県農林総合研究センターの水稲試験場において,2014年,2015年の2年間,水稲の生長期から成熟期におおむね週1回間隔で観測を行った.この圃場では2筆の水田を48区画に細分し,それぞれの区画で移植時期(全4期),品種(コシヒカリ,ふさおとめ,ふさこがね),施肥量を変え栽培している.観測には,電動マルチコプター(enRoute社:Zion QC630,MEDIX社:JABO H601G,DJI社Phantom2),デジタルカメラ(可視画像:RICOH社 GR,近赤外画像:BIZWORKS社 Yubaflex)を用いて対地高度50mから空撮を行った.オルソモザイク画像の作成は,Structure from Motion / Multi-View Stereo(SfM/MVS)ソフトウェアPhotoScan Professional(Agisoft社)を用いて重なり合う複数枚の鉛直空撮画像より作成した.なお,Yubaflexで撮影した画像は専用ソフト(Yubaflex2.0)で放射輝度に変換後,SfM/MVSソフトウェアでオルソモザイク画像を作成した.その後,作成されたオルソモザイク画像から各区画内の植生指数(NDVIなど)を計算した.その際,NDVIが0以上のピクセルを植生域として土壌・水域を排除したNDVIpure vegetation(以降,NDVIpv)を植生指数の1つとして加えた.水稲の生育状況の実測データ(生育ステージ,草丈,LAIなど)は,千葉県農林総合研究センターの観測値を使用した.
3. 結果・考察
NDVIの時系列変化では幼穂形成期前のNDVI上昇量が一時的に小さくなる時期があった.この時期は最高分げつ期とほぼ同じ時期であった.水稲は最高分げつ期に,株内や間の養分や光の受光競争が強くなるため,弱い分げつを中心に穂をつけることなく枯死し,茎数が減少する.この生育特性の影響でNDVI の上昇が一時的に抑制されたと考えられる.また,最高分げつ期は過剰な分げつの発生を抑制するための中干しを行う目安となっている.本研究ではNDVIの時系列変化から最高分げつ期が把握できる可能性を示した.栽培条件において移植時期のみを変えた区画のNDVIの時系列変化に差があり,移植時期が遅い区画ほど移植からNDVIの最大値を記録するまでの日数が短くなった.これは生育期間の気温が高いほど生育が早くなることがNDVIの時系列変化に表れていると考えられる.さらに,移植時期が遅いほど,NDVIの最大値が高くなった.NDVIの値の高いほど生育が良く,一般的には収量の増加が考えられるが,収量の増加は確認されなかった.出穂期周辺の気温が高温になるほど受精障害などの生育障害が発生する頻度が増加することがわかっており2,本研究においても,移植時期が遅いほど出穂期以降の気温が高くなることで,生育障害の影響がより強くなったと考えられる.
水稲の実測データと植生指数との相関関係をもとに,植生指数を用いた出穂前における草丈・LAI推定のための回帰モデルを導いた.その結果,NDVIpvおよびGNDVIで再現性の高い推定式となった.推定結果の RMSEは,NDVIpvでは草丈で0.053m,LAIで0.73,GNDVIでは草丈で0.043m,LAIで0.74と,本研究手法を用いた生育パラメーターの推定の可能性が示唆された.
謝辞
本研究では,千葉県農林総合研究センター水稲温暖化対策研究室の関係諸氏には圃場利用等様々な面でご協力頂いた.ここに記し,感謝を申し上げる.
参考文献
1)秋山侃・石塚直樹・小川茂男・岡本勝男・斎藤元也・田諭,2006,農業リモートセンシングハンドブック,システム農学会.
2)林陽生・石郷岡康史・横沢正幸,2001,温暖化が日本の水稲栽培の潜在的特性に及ぼすインパクト (特集: 環境変動とアジアの稲作).地球環境,6(2),141-148.