日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT23] 環境リモートセンシング

2016年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 202 (2F)

コンビーナ:*石内 鉄平(明石工業高等専門学校)、島崎 彦人(独立行政法人国立高等専門学校機構 木更津工業高等専門学校)、近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、長谷川 均(国士舘大学文学部地理学教室)、桑原 祐史(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、座長:島崎 彦人(独立行政法人国立高等専門学校機構 木更津工業高等専門学校)

15:45 〜 16:00

[HTT23-08] トナカイの移動経路変化とその原因のリモートセンシングによる解明

*眼目 健翔1田代 達也1テレングト 雛子1高梨 晴己1高成 真輝1木田 樹1Marpaung Fiolenta1吉井 孝拓1荻野 由香1今井 正尭1,3成瀬 延康1,2高橋 幸弘1,3 (1.北海道大学グローバルサイエンスキャンパス、2.北海道大学高等教育推進機構、3.北海道大学大学院理学研究院)

キーワード:植生、リモートセンシング、NDVI、トナカイ、レナ川

シベリアの北極圏では、現在でも野生のトナカイの狩猟により生計を立てている遊牧民がおり、トナカイの肉、毛皮などの売買が重要な産業の一つとなっている。野生のトナカイは、毎年決まった経路を、牧草を求めて周遊する性質をもつ。ところが、近年、トナカイの周遊経路が急速にそして予期せぬ形で変化してきており、野生のトナカイの群れの位置を、ハンターの伝統的経験からは予測できなくなってしまい、北極圏の遊牧民の生計を脅かしている。こうした原因は、近年の気候変動によるトナカイの主食となる牧草の植生の変化のためと考えられている。これまで、数頭のトナカイにGPS発信器を取り付け、群れの移動経路を追跡する研究がロシアのサハ共和国で行われてきた。しかし、標本数が少ないため、広大なシベリア全土に渡る観測網とはなっていない。また、他地域への応用を考えた場合、その他全ての領域で野生のトナカイにGPS発信器を装着することは現実的ではない。
そこで、本研究では、リモートセンシングにより野生のトナカイの移動経路を解明し、移動経路が変化した原因について考察することを目的とする。具体的には、既にGPS発信器にて移動経路が追跡されている領域、1)サハ共和国のレナ川周辺の、植生の年変化について衛星画像解析により調査し、さらには、2)衛星画像によりトナカイの群れを直接把握する方法の確立を試みた。本研究では主に1)に注力した。
まず、レナ川周辺の植生の気候変動の影響について調査した。過去、MODISデータを用いたレナ川周辺の植生指数から、植生の違いについて議論した報告があるが、本研究ではより空間分解能の高いLandsat7,8を用いた。2010~2015年の該当領域の衛星画像から正規化植生指数(NDVI)を求めたところ、2010年と2015年に限り、NDVI値がピークとなる時期が顕著に一ヶ月ほどずれていることが判明した。この時期はエルニーニョ現象が生じており、この地域の夏の異常気象をもたらした可能性がある。この結果から、トナカイの群れの周遊経路の牧草が活性化する時期が年ごとに変化しており、それに伴いトナカイの周遊経路が変化したと考察される。