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[MAG24-02] 福島第一原発事故により放出された粒子状放射性物質の物理・化学的性状の解明
キーワード:福島第一原発事故、放射性粒子、大気粉塵、土壌、X線分析、放射光
我々は福島第一原発事故由来と考えられる放射性物質を含む固体粒子を大気粉塵や土壌といった環境試料から分離し,非破壊の放射光マイクロビームX線分析を中心に,1粒子レベルでの物理・化学的性状の解明を進めている1,2)。本発表では,我々の研究によりこれまで発見された放射性粒子について,その物理・化学的性状に関するまとめを報告する。
茨城県つくば市の気象研究所および産業技術総合研究所で事故後の2011年3月にフィルター上に捕集された大気粉塵から,先行研究1,2)に従って放射性粒子を分離した。同様に,2014年に福島県内の屋外プールで採取した堆積物,および2015年に県内で採取した土壌からも分離を行った。分離された放射性粒子に対して,Ge半導体検出器を用いた1粒子でのガンマ線スペクトル測定と,低真空型の走査型電子顕微鏡による形態観察および組成分析を行った。さらにこれらの放射性粒子を大型放射光施設SPring-8のBL37XUに持ち込み,縦横約1 µmに集光したマイクロビームX線をプローブとして,放射光蛍光X線分析法(SR-µ-XRF)により各粒子の重元素組成とその分布を,放射光X線吸収端近傍構造解析法(SR-µ-XANES)により含有元素の化学状態を,放射光X線回折法(SR-µ-XRD)により結晶構造を非破壊で分析した。
本研究により,異なる物理・化学的性状を有する3種類の放射性粒子(Group A,B,C)の存在が明らかとなった。Group Aは直径1~5 µmと小さく,基本的に全て球形である。足立ら1)により,事故直後の2011年3月14~15日に気象研究所で捕集された大気粉塵から発見され,1粒子で約1 Bqの放射能を有し,質量濃度にして%オーダーの高濃度のCsを含むことから,通称「Csボール」と呼ばれる。またCsの他にもRb,Sn,Baなど核燃料の核分裂生成物(FP)由来と考えられる元素を含み,一部の粒子では核燃料由来の可能性があるUも検出されている2)。FP以外にもSi,Fe,Znなど炉の構成材料由来と考えられる元素も含まれている。Siを母体とするガラスだと考えられ,非水溶性である2-4)。長期的な環境影響が懸念され,実際に福島県内の屋外プール堆積物中にもこの種類の粒子が残留していることが明らかになっている。134Cs/137Csは約1であり,2号機または3号機から放出された可能性が高い。ただしCuやNi,Agなど,一部の粒子からしか検出されていない元素も見られ,単一的な生成・放出過程であったとは考えづらい。
Group Bは,福島第一原発北西地域(福島県浪江町)の土壌から分離された放射性粒子である。同地域には,佐藤ら3)により1号機由来の放射性物質が飛来した可能性が指摘されている。球形でµmオーダーのGroup Aとは異なり,Group Bは大型の不定形粒子で100 µmを超えるものもある。粒子自体はGroup Aと同じくSiを母体とするガラスであると考えられるが,CsよりもBaを多く含む傾向にある,Group Aでは検出されていないSrを含む,Sbに富むといった点で,Group Aとは組成的特徴に差が見られる。また粒子内に数µmオーダーでFeやMo,Sn,Uなどの一部の金属元素の濃集が見られ,SR-µ-XANES/XRDにより,こうした濃集点においてガラスではない相の存在が示されている。
Group Cは,2011年3月30日に産業技術総合研究所で捕集された大気粉塵より分離された放射性粒子である。粒径はGroup Aと同程度の数µmであるが,球形ではなく凹凸があり,角張った形状のものが多い。上記の2グループの粒子とは異なり,Group Cの粒子の主成分はSiではなく,重元素組成にもGroup AおよびBとは明確な違いが見られた。これら3グループの粒子の物理的・化学的性状の違いは,その生成・放出過程の違いに起因するものであると考えられ,事故後に複数のプロセスによって粒子状の放射性物質が環境中に放出されたことが化学的に実証された。
1) K. Adachi et al.: Scientific Reports 3, 2554 (2013).
2) Y. Abe et al.: Analytical Chemistry 87, 8521-8525 (2014).
3) 佐藤 志彦ら:「放射化学」31, 27-28 (2015).
4) N. Yamaguchi et al.: Scientific Reports 6, 20548 (2016).
茨城県つくば市の気象研究所および産業技術総合研究所で事故後の2011年3月にフィルター上に捕集された大気粉塵から,先行研究1,2)に従って放射性粒子を分離した。同様に,2014年に福島県内の屋外プールで採取した堆積物,および2015年に県内で採取した土壌からも分離を行った。分離された放射性粒子に対して,Ge半導体検出器を用いた1粒子でのガンマ線スペクトル測定と,低真空型の走査型電子顕微鏡による形態観察および組成分析を行った。さらにこれらの放射性粒子を大型放射光施設SPring-8のBL37XUに持ち込み,縦横約1 µmに集光したマイクロビームX線をプローブとして,放射光蛍光X線分析法(SR-µ-XRF)により各粒子の重元素組成とその分布を,放射光X線吸収端近傍構造解析法(SR-µ-XANES)により含有元素の化学状態を,放射光X線回折法(SR-µ-XRD)により結晶構造を非破壊で分析した。
本研究により,異なる物理・化学的性状を有する3種類の放射性粒子(Group A,B,C)の存在が明らかとなった。Group Aは直径1~5 µmと小さく,基本的に全て球形である。足立ら1)により,事故直後の2011年3月14~15日に気象研究所で捕集された大気粉塵から発見され,1粒子で約1 Bqの放射能を有し,質量濃度にして%オーダーの高濃度のCsを含むことから,通称「Csボール」と呼ばれる。またCsの他にもRb,Sn,Baなど核燃料の核分裂生成物(FP)由来と考えられる元素を含み,一部の粒子では核燃料由来の可能性があるUも検出されている2)。FP以外にもSi,Fe,Znなど炉の構成材料由来と考えられる元素も含まれている。Siを母体とするガラスだと考えられ,非水溶性である2-4)。長期的な環境影響が懸念され,実際に福島県内の屋外プール堆積物中にもこの種類の粒子が残留していることが明らかになっている。134Cs/137Csは約1であり,2号機または3号機から放出された可能性が高い。ただしCuやNi,Agなど,一部の粒子からしか検出されていない元素も見られ,単一的な生成・放出過程であったとは考えづらい。
Group Bは,福島第一原発北西地域(福島県浪江町)の土壌から分離された放射性粒子である。同地域には,佐藤ら3)により1号機由来の放射性物質が飛来した可能性が指摘されている。球形でµmオーダーのGroup Aとは異なり,Group Bは大型の不定形粒子で100 µmを超えるものもある。粒子自体はGroup Aと同じくSiを母体とするガラスであると考えられるが,CsよりもBaを多く含む傾向にある,Group Aでは検出されていないSrを含む,Sbに富むといった点で,Group Aとは組成的特徴に差が見られる。また粒子内に数µmオーダーでFeやMo,Sn,Uなどの一部の金属元素の濃集が見られ,SR-µ-XANES/XRDにより,こうした濃集点においてガラスではない相の存在が示されている。
Group Cは,2011年3月30日に産業技術総合研究所で捕集された大気粉塵より分離された放射性粒子である。粒径はGroup Aと同程度の数µmであるが,球形ではなく凹凸があり,角張った形状のものが多い。上記の2グループの粒子とは異なり,Group Cの粒子の主成分はSiではなく,重元素組成にもGroup AおよびBとは明確な違いが見られた。これら3グループの粒子の物理的・化学的性状の違いは,その生成・放出過程の違いに起因するものであると考えられ,事故後に複数のプロセスによって粒子状の放射性物質が環境中に放出されたことが化学的に実証された。
1) K. Adachi et al.: Scientific Reports 3, 2554 (2013).
2) Y. Abe et al.: Analytical Chemistry 87, 8521-8525 (2014).
3) 佐藤 志彦ら:「放射化学」31, 27-28 (2015).
4) N. Yamaguchi et al.: Scientific Reports 6, 20548 (2016).