日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG24] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

2016年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 A03 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*北 和之(茨城大学理学部)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、中島 映至(宇宙航空研究開発機構)、五十嵐 康人(気象研究所 環境・応用気象研究部)、山田 正俊(弘前大学被ばく医療総合研究所)、竹中 千里(名古屋大学大学院生命農学研究科)、山本 政儀(金沢大学環低レベル放射能実験施設)、神田 穣太(東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科)、篠原 厚(大阪大学)、座長:田野 祐子(筑波大学大学院 システム情報工学研究科)

11:15 〜 11:30

[MAG24-09] 侵食プロット観測およびレーザースキャン測量により推定した斜面スケールのCs-137流出プロセス

*脇山 義史1馬目 凌2恩田 裕一3吉村 和也4 (1.福島大学環境放射能研究所、2.筑波大学生命環境科学研究科、3.筑波大学アイソトープ環境動態研究センター、4.日本原子力研究開発機構福島研究開発部門)

キーワード:レーザースキャン、土壌侵食、セシウム137

原発事故により陸域に沈着した放射性セシウムの移行を予測するためには、土砂移動にともなう放射性セシウムの移行量とプロセスを把握することが重要である。既往研究では土壌侵食プロットを用いた観測により放射性セシウムの流出量が調査された。これに関連した長期的な観測例は少なく、季節性や長期的な時間変化について不明の点が多い。土砂移動と放射性セシウムの関係を調べた研究では、斜面上におけるリルの形成や土砂の堆積などの侵食プロセスが流出する土砂の量や含まれる放射性セシウムの濃度に影響することが知られている。土壌侵食に関する研究では、侵食プロットなどの施設を用いた侵食量の直接的な観測に加えて、画像解析や磁鉄鉱などのトレーサーを援用して詳細なプロセスを解明する試みが行われてきた。近年ではレーザープロファイラによる地形計測手法が急速に発達しており、これらの土壌侵食の解析手法を援用することで放射性セシウムの移行のより詳細なプロセスを明らかに出来ると考えられる。本研究では、斜面スケールでの土砂移動にともなう放射性セシウムの移動プロセスを明らかにすることを目的として、福島原発により放射性セシウムが沈着した地点に土壌侵食プロットを設置して土砂およびCs-137流出量の観測を行うとともにレーザープロファイラによる地表面の地形変化を追跡し、土砂移動にともなうCs-137流出の時間変化および季節性について考察を行った。調査は福島県川俣町山木屋地区内のタバコ畑に設置した土壌侵食プロットを対象として行った。対象地点の第3次航空機モニタリング調査によるCs-137初期沈着量はBq/m2、斜面勾配は4.4°である。土壌侵食プロットは縦22.13 m、幅5 mの受食域とその下端の量水施設と土砂捕捉用のタンクからなっており、表面流量の計測、流出土砂の回収ができる仕組みとなっている。2011年7月から2014年8月の間、およそ2週間から1か月の間隔で流出した土砂を回収し、乾燥・秤量後、土砂のCs-137濃度を測定した。また、プロットの近傍に雨量計を設置して、降水量を観測し、降水量データに基づいてUSLEに使用される侵食力を算出した。レーザープロファイラによる地形計測はプロット内の受食域を対象として、観測期間中10回の地形計測を行った。取得した地形データをラスターデータ化し、計測回ごとの1cmメッシュDEMを取得するとともに、前計測回のDEMデータとの差分により、地表面起伏変化量を算出した。なお、地表面起伏変化量は正の値が地表面上昇、負の値が地表面低下を示す。観測期間中の積算流出土砂量は9.8 kg/ m2であり、積算セシウム137流出量は107 kBq/m2であった。土砂のCs-137濃度の平均値は13 kBq/kgで変動係数は38%であった。Cs-137濃度の時間変化を原発事故からの経過年数を変数とする指数関数は減少傾向を示したが、その決定係数R2=0.075であった。季節性に着目してCs-137濃度の傾向を見ると、春から秋にかけては減少や横ばいの傾向を示し,冬の期間を経ることで濃度が増加する傾向が見られた。一般的に未撹乱土壌中ではCs-137濃度は表層から鉛直下方に向けて指数関数的に減少する深度分布を示すため、表面侵食によって流出する土砂のCs-137濃度は侵食の進行とともに減少すると考えられたが、本研究の結果で減少傾向が明瞭とならなかったのはCs-137濃度が季節的な変動を示したためであると考えられる。プロット内の地表面起伏の変化に着目すると、春から夏にかけてリルが拡大し,夏から秋の間は地表面変化が小さく,冬から春の間では地表面が上昇する傾向が見られた.レーザープロファイラによる地表面起伏量は同期間中の積算流出土砂量との間に負の相関を示したが、Cs-137濃度とは有意な相関は見られなかった。しかし、浮遊土砂と堆積土砂のCs-137濃度について、それぞれ寒候期と暖候期に分けて地表面起伏量との関係を見ると、暖候期は地表面起伏変化量と土砂のCs-137濃度が弱い負の相関を示すのに対し、寒候期には土砂のCs-137濃度が高くなる傾向が見られた。この関係から、暖候期はリルからCs-137濃度が相対的に低い土砂が定常的に供給されるが、規模の大きい降水イベント時には比較的Cs-137濃度の高いインターリル域からの寄与が増加したことが考えられる。一方、寒候期には表土の凍結や融解などによってプロット全体の受食性が高まり、その後の融雪や降雨にともなってインターリル域からの寄与が増加したと考えられる。以上のように、本研究の結果は放射性セシウムの移行には季節性があることを示しており、将来予測の精度向上のためには斜面スケールにおけるCs-137移動プロセスについての複数年の観測が有用であることが示唆される。