14:30 〜 14:45
[MAG24-16] 2014年夏季の北太平洋亜寒帯域および北極海における福島第一原子力発電所事故由来の放射性セシウムの分布
キーワード:福島第一原子力発電所事故、放射性セシウム、北太平洋亜寒帯域
2011年3月11日に発生した巨大地震とそれに引き続く大津波は、福島第一原子力発電所(FNPP1)の核燃料露出と炉心損傷を引き起こした。その結果、多くの放射性セシウム(134Csと137Cs)がFNPP1より漏えいし北太平洋に放出された。これまでの観測研究によって、放出された放射性セシウムは北太平洋海流に沿って北太平洋中緯度の表層を西から東に移行しつつあることがわかっている。しかし、その海洋内部への拡がりについては、観測データの不足からまだ十分には解明されていない。我々は、事故から約3年半後の2014年7月~10月に、北太平洋亜寒帯域および北極海において、表面から深度約800mまでの海水中溶存放射性セシウムの濃度を測定したのでその結果を報告する。海水試料は、海洋地球観測船「みらい」MR14-04及びMR14-05航海において採取した。表面水は、バケツ採水及び連続ポンプ汲上採水によって、鉛直採水はニスキン採水器を用いて、各20~40リットルを採取した。採取した海水は、その一部を船上でろ過した。その後、濃硝酸を添加して陸上の実験室に持ち帰った。陸上の実験室(海洋研究開発機構むつ研究所、日本海洋科学振興財団)では海水中の放射性セシウムをリンモリブデン酸アンモニウム共沈法によって濃縮し、金沢大学低レベル放射実験施設の低バックグランドゲルマニウム半導体検出器を用いてその濃度を測定した。濃縮前処理と測定を通じて得られた分析の不確かさは、約8%であった。北極海の表面から深度200mでは約1.5 Bq/m3、200~800mでは約3.5 Bq/m3の137Csが測定された。これらはFNPP1事故前から観測されており、大気中核実験(主に1950-60年代)と欧州の核燃料再処理工場からの漏洩(主に1980-90年代)に由来したものと考えられる。一方で、FNPP1事故にのみ由来する134Csはほぼ全層で検出下限値(約0.1 Bq/m3)以下であったが、極低濃度(0.07 Bq/m3)であるが深度150mにおいてのみ有意に検出された。同深度は塩分極小に対応しており、太平洋水を起源とする中層水に相当する。一方、2012年および2013年の鉛直観測では全層にわたって134Csは検出されていない。ベーリング海の表面水では~0.3 Bq/m3の134Csが検出されたが、これは過去2年間に観測された濃度とほぼ同程度であった。これらの結果は、FNPP1事故由来の134Csがベーリング海から北極海に移行するために、事故から約3年半を要したことを示唆している。亜寒帯域の北緯47度線に沿った観測点の表面水中137Cs濃度は、西部亜寒帯域で~2 Bq/m3と低く、西経約150度を中心とした東部で~8 Bq/m3と相対的に高くなっていた。137Cs濃度は深度ともに漸減し、深度800mでは東西を問わず約0.2 Bq/m3であった。FNPP1事故にのみ由来する134Csは、亜寒帯域の全観測点で深度200m以浅の表面混合層でのみ検出された。このことは、200m以深で観測された137CsはFNPP1事故由来ではなく、主に核実験由来であることを示している。134Cs濃度は西部亜寒帯で~0.3 Bq/m3であったのに対して、西経約150度を中心とした東部では~2.5 Bq/m3と相対的に高くなっていた。この相対的に134Cs濃度の高い水塊は、2012年夏季には日付変更線付近に存在していたことが報告されている。これらの観測結果は、事故直後の日本近海への沈着また汚染水流出に起因する134Cs高濃度水が、2014年夏季にはさらに東へ輸送されて西経150度を中心とする東部亜寒帯域まで到達したことを示唆している。この本研究はJSPS科研費24110005の助成を受けた。