15:30 〜 15:45
[MGI20-01] 大雪山国立公園における気候変動と生態系インパクト
★招待講演
キーワード:高山生態系、気候変動、高山植物
山岳生態系は気候変動に対して最も脆弱な系であり、地球環境変化の生態系への影響を検出するのに適している。これまでに、生物の生理的応答、季節応答、分布域の変化など多くの事例が報告されており、種の絶滅、個体群衰退、多様性の減少、植生変化の進行が明らかである。しかしながら、我が国の山岳地域における気象・環境データならびに生態系モニタリングのデータ集積は大変乏しく、生態系変化の定量化や生態系変化を引き起こしている要因解析のためには、地域特有の生育環境変化のモニタリングが必要である。
北海道にある大雪山国立公園は日本最大の国立公園であり、豊富な積雪が作り出す雪解け時期の違いが高山生態系の生物多様性を生み出す原動力となっている。大雪山においても近年、気温の温暖化や雪解けの早期化が進行しており、生物の生育期間の変化や土壌の乾燥化などが引き起こしたと推測される高山生態系への影響も多数観察されている。この講演では、これまでに大雪山系で観察された生態系インパクトを報告する。
主な高山生態系へのインパクトとして、生物季節(フェノロジー)の変化と生物の分布変化がある。高山植物の開花時期は雪解け時期に強く依存しており、雪解けの早期化は高山植物群集の開花パターンならびに開花期間を大きく改変する。このような群集スケールのフェノロジー改変は、花を資源として利用する昆虫群集との相互作用にも強い影響をもたらす。開花時期の早期化により高山植物と花粉媒介昆虫との共生関係が崩される場合には、植物と昆虫の双方にとってマイナスとなる。高山生態系の重要な送粉昆虫であるマルハナバチ類は真社会性昆虫であり、季節的なコロニー発達に伴い個体数が増大する。気候変動に対して敏速な応答が難しく、温暖な年には植物群集の開花進行に応じたコロニー成長ができずに、生育シーズン後半で餌不足になる状況が生じることがある。開花時期と花粉媒介昆虫の活性時期にズレが生じると、植物への送粉サービスが低下し、多くの高山植物で種子生産の低下が起きる。これが引き金となり、高山植物個体群の衰退も懸念される。さらに、春の温暖化は耐寒性の低下を引き起こし、生育シーズン初期の霜害の危険性を増加させる。このように、気候変動による生物季節の撹乱は、高山生態系に大きな影響をもたらす。
温暖化に伴う高山植生変動も進行している。大雪山五色が原では、湿生お花畑の消失とチシマザサの拡大が進行している。その原因として、雪解け時期の早期化と土壌乾燥化が考えられる。湿生お花畑を代表するエゾノハクサンイチゲの急速な個体群衰退は、乾燥ストレスにより個体成長が阻害され、種子生産が制限されたために起きたことが確かめられた。また、大雪山系で広く認められるチシマザサの分布拡大は、雪解けの早まりに伴う土壌乾燥化と生育期間の延長の双方により加速したと考えられる。チシマザサは地下茎の伸長により巨大なクローンを形成し、強い被圧効果により高山植物群集を衰退させ、種多様性を激減させる。また、活発な蒸散作用によりさらなる土壌乾燥化が引き起こされることが判明した。急速に分布を拡大するチシマザサの管理は、高山生態系の生物多様性を保全する上で非常に重要な課題である。ササの除去実験により高山植生が急速に回復したことから、人為的なササの刈取りは高山植生の保全政策として有効であることが示唆された。
気候変動下で高山生態系と生物多様性を保全していくためには、保全管理政策の策定根拠となる長期モニタリング体制の構築が極めて重要である。さらに、気候変動と生態系応答の進行速度に対応できる順応的保全管理計画の策定と実行が求められる。
北海道にある大雪山国立公園は日本最大の国立公園であり、豊富な積雪が作り出す雪解け時期の違いが高山生態系の生物多様性を生み出す原動力となっている。大雪山においても近年、気温の温暖化や雪解けの早期化が進行しており、生物の生育期間の変化や土壌の乾燥化などが引き起こしたと推測される高山生態系への影響も多数観察されている。この講演では、これまでに大雪山系で観察された生態系インパクトを報告する。
主な高山生態系へのインパクトとして、生物季節(フェノロジー)の変化と生物の分布変化がある。高山植物の開花時期は雪解け時期に強く依存しており、雪解けの早期化は高山植物群集の開花パターンならびに開花期間を大きく改変する。このような群集スケールのフェノロジー改変は、花を資源として利用する昆虫群集との相互作用にも強い影響をもたらす。開花時期の早期化により高山植物と花粉媒介昆虫との共生関係が崩される場合には、植物と昆虫の双方にとってマイナスとなる。高山生態系の重要な送粉昆虫であるマルハナバチ類は真社会性昆虫であり、季節的なコロニー発達に伴い個体数が増大する。気候変動に対して敏速な応答が難しく、温暖な年には植物群集の開花進行に応じたコロニー成長ができずに、生育シーズン後半で餌不足になる状況が生じることがある。開花時期と花粉媒介昆虫の活性時期にズレが生じると、植物への送粉サービスが低下し、多くの高山植物で種子生産の低下が起きる。これが引き金となり、高山植物個体群の衰退も懸念される。さらに、春の温暖化は耐寒性の低下を引き起こし、生育シーズン初期の霜害の危険性を増加させる。このように、気候変動による生物季節の撹乱は、高山生態系に大きな影響をもたらす。
温暖化に伴う高山植生変動も進行している。大雪山五色が原では、湿生お花畑の消失とチシマザサの拡大が進行している。その原因として、雪解け時期の早期化と土壌乾燥化が考えられる。湿生お花畑を代表するエゾノハクサンイチゲの急速な個体群衰退は、乾燥ストレスにより個体成長が阻害され、種子生産が制限されたために起きたことが確かめられた。また、大雪山系で広く認められるチシマザサの分布拡大は、雪解けの早まりに伴う土壌乾燥化と生育期間の延長の双方により加速したと考えられる。チシマザサは地下茎の伸長により巨大なクローンを形成し、強い被圧効果により高山植物群集を衰退させ、種多様性を激減させる。また、活発な蒸散作用によりさらなる土壌乾燥化が引き起こされることが判明した。急速に分布を拡大するチシマザサの管理は、高山生態系の生物多様性を保全する上で非常に重要な課題である。ササの除去実験により高山植生が急速に回復したことから、人為的なササの刈取りは高山植生の保全政策として有効であることが示唆された。
気候変動下で高山生態系と生物多様性を保全していくためには、保全管理政策の策定根拠となる長期モニタリング体制の構築が極めて重要である。さらに、気候変動と生態系応答の進行速度に対応できる順応的保全管理計画の策定と実行が求められる。