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[MGI20-05] 中部山岳地域における低水流量を規定する自然・人為因子
キーワード:流況、中部山岳地域、地生態系サービス
低平地に居住する都市住民は、山岳地域からの水資源供給に大きく依存する一方で、豪雨時には洪水のリスクにさらされている。渇水期の流量を維持しながら洪水時の流量増加を緩和するためには、流域の保水機能、特に地下水貯留機能を維持・向上させることが肝要である。しかしながら、地下水貯留機能を定量的に診断・評価する手法は確立されていない。本研究では流況指標に着目し、国土数値情報等を用いた多変量解析によって流域の地下水貯留機能を規定する自然・人為因子の特定とその影響力の定量化を試みた。信濃川・黒部川・富士川・大井川・天竜川・木曽川等の水系を中心とする中部山岳地域を対象として、計170地点における河川流量・ダム流入量データを収集し、解析に供した。また、自然・人為因子の空間分布データとして、国土数値情報の土地利用細分メッシュデータ・平年値(気候)メッシュデータ、ならびに50万分の1土地分類基本調査GISデータ(地形分類図・表層地質図)を用いた。まず170地点の豊水流量を目的変数として、各流域内の気候諸量および地質・地形・土地利用のタイプごとの面積を説明変数とした重回帰分析を実施した。その際、気候・地質・地形因子についてはステップワイズ法によって変数選択を行い、人為的要素の強い土地利用については強制投入とした。その結果、年降水量・年平均気温・年最大積雪深・台地面積・火山面積・第四期堆積岩類面積などが有意な変数として選択された。一方、低水流量を目的変数とした重回帰分析では、最大積雪深を除く気候因子は有意でなかった。このことは、低水流量が雪氷や地下水としての水貯留機能の良い指標となっていることを示唆する。重回帰式の偏回帰係数として評価された低水流量への影響力はゴルフ場・スキー場・荒地(森林限界以上の高地が主)で大きく、これらの面積が大きいほど低水流量が減少するという結果が得られた。これに対し、台地(扇状地)・水田は面積が大きいほど低水流量が増加する傾向が認められ、森林も弱いながら正の影響を有していた。以上の結果から、ゴルフ場やスキー場の建設といった山林伐採・斜面造成を伴う開発行為は流域の保水機能を低下させた可能性が強い。一方で、流域の保水機能を維持するためには扇状地や水田を適切に管理することが重要と言える。今後、こうした機能を地生態系サービスとして再認識し、流域圏管理や国土政策に活かすことが望まれる。