17:15 〜 18:30
[MGI20-P04] 木曽山脈の森林限界移行帯において相観植生を支配する地形的要因
キーワード:垂直分布、森林限界、高山植生、地生態学、GIS、木曽山脈
日本の高山の稜線付近は地盤条件や気象条件が狭い範囲で異なるために,諸条件の組み合わせによって多様な植物の生育環境が生じ,変化に富んだ植生景観をなす.これまでの研究によって,積雪や土壌などの環境条件と植生との間の,定性的な関係性は数多く論じられている.一方で,それらの研究で示された関係性は,狭い範囲の調査に基づいているため,日本の高山において普遍的に成立するのか検討できなかった.そこで本研究は,木曽山脈の高山帯と称される領域の全てと亜高山帯の一部を対象に,数値標高モデル(DEM)から得られる地表面の形状と相観に基づいた植生分布を比較することで,植生の境界を決定する地形的な要因とその閾値となる指標を検討する.
木曽山脈の茶臼山から越百岳にかけての標高2200 m以上の領域,南北約20 km,東西約10 kmを解析対象範囲とした.対象範囲を覆う空中写真を用いてハイマツ地,ダケカンバ林,亜高山帯針葉樹林(以下,針葉樹林),裸地,高山草原の5つに植生を分類し,相観植生図を作成した.国土地理院の10 mメッシュのDEMデータから,標高,斜面傾斜,斜面方位,主稜線からの比高(以下,比高),尾根谷度の5つの地形量をメッシュ毎に算出した.尾根谷度は任意の地点における,上空の拡がりを表現したもので,値が大きい,すなわち開いた場所ならば尾根の性質を示し,値が小さいと谷の性質を示す.これらの地形量と植生図を重ね合わせ,両者の関係を統計的に解析した.
各地形量の頻度分布を植生別に集計して比較すると,優占する植生が標高の低い場所から順に,針葉樹林,ダケカンバ林,ハイマツ地と変化した.一方で,標高だけではなく,斜面方位,比高,尾根谷度の頻度分布も,植生毎に出現傾向が異なっていた.いずれの場合も,地形の影響を受けた風が降雪を再分配し,積雪深を空間的に不均一にしたことを反映すると考えられた.
風当たりの強さを決定する複数の地形量を1つの変数で表すために,斜面方位の東西成分と尾根谷度の統合指標を算出した.この統合指標は,対象地域最北部の森林限界付近で実際に測定した積雪深との相関係数が0.68を示すため,積雪の地形的なポテンシャル量とみなせ,これを風背度と名付けた.
風背度を横軸に,標高を縦軸にとり,その領域における最も優占する植生を図示すると,優占する植生の境界は標高と風背度の線形関係で表せた(図1).ハイマツ地と高木林との境界,すなわち森林限界は,風背度の値が−2以下の値をとる場所では,標高2500 m付近で針葉樹からハイマツへ移行する.それ以上の値をとる場合,優占種がダケカンバに交代し,その後は境界が一次関数的に上昇する.これは風背度が増大すると,森林の成立を阻害する強風や着氷などのストレスが緩和され,雪圧に耐性のある樹木であれば優占できることを意味するだろう.またこの図より,裸地と高山草原が優占する標高帯は存在せず,これらの植生の分布は標高ではなく,立地する場所の形状によって支配されることが分かる.
木曽山脈の森林限界付近の相観植生は,標高と風背度の2指標で大枠が記述された.この2指標は気温と積雪の量を間接的に表しており,2指標を同時に比較することで,各植生の成立に関して最も支配的な要因を評価できた.
木曽山脈の茶臼山から越百岳にかけての標高2200 m以上の領域,南北約20 km,東西約10 kmを解析対象範囲とした.対象範囲を覆う空中写真を用いてハイマツ地,ダケカンバ林,亜高山帯針葉樹林(以下,針葉樹林),裸地,高山草原の5つに植生を分類し,相観植生図を作成した.国土地理院の10 mメッシュのDEMデータから,標高,斜面傾斜,斜面方位,主稜線からの比高(以下,比高),尾根谷度の5つの地形量をメッシュ毎に算出した.尾根谷度は任意の地点における,上空の拡がりを表現したもので,値が大きい,すなわち開いた場所ならば尾根の性質を示し,値が小さいと谷の性質を示す.これらの地形量と植生図を重ね合わせ,両者の関係を統計的に解析した.
各地形量の頻度分布を植生別に集計して比較すると,優占する植生が標高の低い場所から順に,針葉樹林,ダケカンバ林,ハイマツ地と変化した.一方で,標高だけではなく,斜面方位,比高,尾根谷度の頻度分布も,植生毎に出現傾向が異なっていた.いずれの場合も,地形の影響を受けた風が降雪を再分配し,積雪深を空間的に不均一にしたことを反映すると考えられた.
風当たりの強さを決定する複数の地形量を1つの変数で表すために,斜面方位の東西成分と尾根谷度の統合指標を算出した.この統合指標は,対象地域最北部の森林限界付近で実際に測定した積雪深との相関係数が0.68を示すため,積雪の地形的なポテンシャル量とみなせ,これを風背度と名付けた.
風背度を横軸に,標高を縦軸にとり,その領域における最も優占する植生を図示すると,優占する植生の境界は標高と風背度の線形関係で表せた(図1).ハイマツ地と高木林との境界,すなわち森林限界は,風背度の値が−2以下の値をとる場所では,標高2500 m付近で針葉樹からハイマツへ移行する.それ以上の値をとる場合,優占種がダケカンバに交代し,その後は境界が一次関数的に上昇する.これは風背度が増大すると,森林の成立を阻害する強風や着氷などのストレスが緩和され,雪圧に耐性のある樹木であれば優占できることを意味するだろう.またこの図より,裸地と高山草原が優占する標高帯は存在せず,これらの植生の分布は標高ではなく,立地する場所の形状によって支配されることが分かる.
木曽山脈の森林限界付近の相観植生は,標高と風背度の2指標で大枠が記述された.この2指標は気温と積雪の量を間接的に表しており,2指標を同時に比較することで,各植生の成立に関して最も支配的な要因を評価できた.