17:15 〜 18:30
[MGI20-P08] 白馬岳高山帯の地表環境に現れる山火事の影響の長期モニタリング
キーワード:山火事、高山帯、ハイマツ、斜面侵食、地温変化、白馬岳
2009年5月9日に白馬岳の高山帯において発生した山火事から6年が経過した。山火事を契機とした大規模な土砂移動は生じていないことがこれまでに確認されているが,山火事によって葉が焼失したハイマツ群落では,今後ハイマツが枯死し,根が抜けるなどの変化が生じる場合に新たな土砂移動のプロセスが始まる可能性がある。そのため,地形の変化を引き続きモニタリングしていく必要があると考え,目視による地形観察,地温観測を実施した結果,新たな土砂移動の兆候が認められた。
山火事跡地の詳細な地形図を基図として,延焼域及びその周辺の斜面に立ち入り,目視観察を主たる方法として,地表の状況を記載した。また,山火事によって焼失したハイマツ群落と,その直近のハイマツ非焼失群落に,それぞれ温度計を設置し,山火事による斜面環境の変化を観測した。温度センサーは,リター内,1cm深,10cm深,40cm深に埋設した。また,両群落の周囲にみられる草本群落にも温度センサーを埋設した。
ハイマツの焼失と地形変化との関連に関して,次の観察事実を得た。2012年までの3年間の観察では,地表流による侵食などの地形変化は生じていなかったが,2013年には,ノッチ状地形の庇の基部が侵食を受けて,ノッチは後退した。しかし,2014年および2015年にはノッチの状態は変化していない。また,焼失ハイマツ群落の林床では,表面の砂礫が移動し,流水の痕跡も認められた。焼失ハイマツ群落の林床のリターの厚さは,2011年にはおおむね4cmであったが,2012年には2cmとなり,2013年と2014年には場所によっては0.5cm程度になった。2015年秋季の観察でも,リターの分解は著しく進み,流水の作用によるリターの流出も相まって,土層表面の露出範囲が拡大していることが確認された。
夏季には非焼失ハイマツ群落に比べ焼失ハイマツ群落における地温が高くなり,それは1cm深で最も顕著であることが明らかとなった。夏季の1cm深地温は2010年と2011年は同傾向であったが,2012年以降は年々高くなっている。また,2009年や2010年では,10月~11月の凍結移行期に1cm深での日周期の凍結融解は生じなかった。しかしその後,2011年の10月~11月には,非焼失ハイマツ群落の1cm深では日周期の凍結融解は生じないものの,焼失ハイマツ群落では13回の日周期の凍結融解が生じた。2012年および2014年の10月~11月も同様で,焼失ハイマツ群落でのみ日周期の凍結融解が10回以上生じた。また,2010年と2011年の融解進行期には日周期の凍結融解は生じなかったが,2012年以降の融解進行期にはそれぞれ20回ほどの日周期の凍結融解が生じた。
ノッチの侵食やリターの流出には,本地域でたびたび生じてきた夏季の豪雨が関与したと考えられるが,焼失ハイマツ群落の林床でみられる砂礫の移動には凍結融解作用の強化が関与し多可能性が考えられる。山火事後にハイマツの焼失によってリターの供給が途絶え,それまでに林床に存在したリターは流水で流出するほか,夏季地温の上昇に伴う乾燥化に起因して分解が進行し,その厚さを減じたために,焼失ハイマツ群落の土層は凍結融解による物質移動の影響を受け始めたとみられる。
山火事跡地の詳細な地形図を基図として,延焼域及びその周辺の斜面に立ち入り,目視観察を主たる方法として,地表の状況を記載した。また,山火事によって焼失したハイマツ群落と,その直近のハイマツ非焼失群落に,それぞれ温度計を設置し,山火事による斜面環境の変化を観測した。温度センサーは,リター内,1cm深,10cm深,40cm深に埋設した。また,両群落の周囲にみられる草本群落にも温度センサーを埋設した。
ハイマツの焼失と地形変化との関連に関して,次の観察事実を得た。2012年までの3年間の観察では,地表流による侵食などの地形変化は生じていなかったが,2013年には,ノッチ状地形の庇の基部が侵食を受けて,ノッチは後退した。しかし,2014年および2015年にはノッチの状態は変化していない。また,焼失ハイマツ群落の林床では,表面の砂礫が移動し,流水の痕跡も認められた。焼失ハイマツ群落の林床のリターの厚さは,2011年にはおおむね4cmであったが,2012年には2cmとなり,2013年と2014年には場所によっては0.5cm程度になった。2015年秋季の観察でも,リターの分解は著しく進み,流水の作用によるリターの流出も相まって,土層表面の露出範囲が拡大していることが確認された。
夏季には非焼失ハイマツ群落に比べ焼失ハイマツ群落における地温が高くなり,それは1cm深で最も顕著であることが明らかとなった。夏季の1cm深地温は2010年と2011年は同傾向であったが,2012年以降は年々高くなっている。また,2009年や2010年では,10月~11月の凍結移行期に1cm深での日周期の凍結融解は生じなかった。しかしその後,2011年の10月~11月には,非焼失ハイマツ群落の1cm深では日周期の凍結融解は生じないものの,焼失ハイマツ群落では13回の日周期の凍結融解が生じた。2012年および2014年の10月~11月も同様で,焼失ハイマツ群落でのみ日周期の凍結融解が10回以上生じた。また,2010年と2011年の融解進行期には日周期の凍結融解は生じなかったが,2012年以降の融解進行期にはそれぞれ20回ほどの日周期の凍結融解が生じた。
ノッチの侵食やリターの流出には,本地域でたびたび生じてきた夏季の豪雨が関与したと考えられるが,焼失ハイマツ群落の林床でみられる砂礫の移動には凍結融解作用の強化が関与し多可能性が考えられる。山火事後にハイマツの焼失によってリターの供給が途絶え,それまでに林床に存在したリターは流水で流出するほか,夏季地温の上昇に伴う乾燥化に起因して分解が進行し,その厚さを減じたために,焼失ハイマツ群落の土層は凍結融解による物質移動の影響を受け始めたとみられる。