日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI20] 山岳地域の自然環境変動

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(信州大学理学部)

17:15 〜 18:30

[MGI20-P13] 岳沢下部に発達する崩壊性大型ローブ状地形の地形・地質的特徴と成因

*木田 千鶴1苅谷 愛彦2高岡 貞夫2島津 弘3 (1.専修大学大学院、2.専修大学、3.立正大学)

キーワード:岩盤崩壊、岩盤の重力変形、岩塊原、完新世

北アルプス・上高地(標高1500 m)では,細密数値地形データの解析に基づき深層崩壊や岩盤の重力変形が随所に発達することが指摘されはじめた.しかし全事例について詳細な検討がなされているわけではない.本研究では西穂高岳南方の岳沢に発達する深層崩壊起源の岩塊集積地形について,現地踏査を基礎として,その地形・地質の特性を検討した.
対象とした岩塊集積地形(DLB;270 m×380 m,6.5×105 m2)は,岳沢・梓川合流点よりやや上流側の岳沢谷底(右岸)に分布する.DLBの中心部を横断するチャネル状凹地(枯れ谷)を境として,DLBは高位DLB(DLB-h)と低位DLB(DLB-l)に細分される.DLBは花崗岩と花崗閃緑岩の巨大角礫が礫支持で累重し,他の礫種は全く含まない.層厚は4 m以上である.表土は未発達である.またDLBは岳沢谷底に発達する現成ないし近過去の沖積錐に覆われる,一方,チャネル状凹地は中礫以下の河川砕屑物に埋積される.腐植の年代から,砕屑物の堆積は180-120 cal BP以前に始まったとみられる.DLB背後の岳沢右岸谷壁上部には楔状の急な谷頭が認められる.この楔状谷頭の上縁付近には同様の谷頭が他にも発達し,それらの谷頭を連ねるように水平方向に遷急線が続く.遷急線の高位側には多数の線状凹地や低崖を伴う花崗岩及び花崗閃緑岩の平滑斜面が展開する.この平滑斜面は西方の西穂山荘付近まで連続する.
以上の状況より,DLBの形成過程を推定した.1)重力変形を受けた平滑斜面の末端で深層崩壊が発生し,楔状の急な谷頭が形成された.2)崩壊物質は岳沢谷底に達してDLBを形成した.3)地形的に不連続なDLB-h とDLB-lの存在は,崩壊が2回発生した可能性を示唆する.4)チャネル状凹地は細粒物質に主に埋積されており,岳沢本流がDLBを越流していたとは考えにくい.水の涵養源として湧水が想定される.ただし湧水は後に枯渇してチャネル状凹地は枯れ谷となった.5)チャネル状凹地の埋積物の年代から,深層崩壊の発生時期は180-120 cal BP以前である.6)体積からDLBは中規模崩壊に分類される.
岳沢では氷河地形や沖積錐に関する研究はあったが,本研究により深層崩壊による岩塊集積地形の存在が明らかになった.表土を欠くDLB上では針葉樹が卓越しており,周囲と異なる環境が特異的に生じているとみられる.