日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI21] 情報地球惑星科学と大量データ処理

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*村田 健史(情報通信研究機構)、野々垣 進(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 情報地質研究グループ)、堀 智昭(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、豊田 英司(気象庁予報部業務課)、寺薗 淳也(会津大学)、若林 真由美(基礎地盤コンサルタンツ株式会社)、堀之内 武(北海道大学地球環境科学研究院)、大竹 和生(気象庁気象大学校)、座長:堀之内 武(北海道大学地球環境科学研究院)、寺薗 淳也(会津大学)

09:45 〜 10:00

[MGI21-04] ひまわり8号データを用いた地表面温度の算出

*山本 雄平1石川 裕彦1奥 勇一郎2 (1.京都大学防災研究所、2.兵庫県立大学)

キーワード:衛星気象学、リモートセンシング、地表面温度

1.はじめに
地表面温度は大気陸面相互作用のキーパラメーターである。そのため、森林伐採や都市化による土地被覆変遷過程の把握や、その変化がもたらす砂漠化やヒートアイランド現象等の環境問題の解明に重要な役割を果たしている。Oku et al. [1],[2],[3]はGMS-5 (ひまわり5号)の観測データを用いてチベット高原上の地表面温度を算出する方法を提案し、これを用いて地表面エネルギーフラックスの算出を行った。一方、昨年7月より運用が開始されたひまわり8号は、従来のひまわりと比べ時空間分解能が大幅に向上している。そのため、土地利用分布が複雑な日本の都市域などでも地表面温度の分布や時間変化を捉えることができ、都市化の進捗にともなう植生・土地利用の変化やヒートアイランド現象のより詳細な実態を明らかにできると期待される。本研究では都市域における熱環境の詳細なモニタリングやヒートアイランド現象のメカニズム解明への適用に向けた、ひまわり8号用の地表面温度算出手法の構築を行った。
2.算出アルゴリズム
静止衛星による地表面温度観測は熱赤外域の波長帯で観測された地表面からの放射量を用いて推定する。熱赤外域の放射は光学的に厚い雲を透過できないため、地表面温度観測が不可能な雲域を前処理として除外する必要がある。そこで本研究ではまず、ひまわり8号の可視・赤外7バンドを利用した雲域検出手法を構築し、雲域を除外するアルゴリズムを作成した。次に、放射伝達モデルRstar6bを用いて様々な地表面・大気状態をシミュレートし、ひまわり8号に最適な地表面温度算出式や使用バンドの検討を行った。さらに、検討によって得られた算出式に衛星天頂角の情報を組み込むことで、よりひまわり8号データに適した地表面温度算出式を考案した。また、センサが観測する熱赤外域の放射量は地表面温度の高さに応じて変化するだけでなく、水蒸気や地表面射出率の大きさにも反映して変化するため、地表面温度の算出には水蒸気量や地表面射出率の情報も必要となる。本研究では水蒸気量と地表面射出率もひまわり8号データから推定することで、ひまわり8号データだけで地表面温度の算出が可能な手法を構築した。
3.結果
本研究の手法によって算出された地表面温度の精度を評価するため、NASAで提供されているMODIS地表面温度プロダクト(Collection-5) を用いて日本域を対象とした比較検証を行った。その結果、高温多湿の環境下で過小評価となるMODIS地表面温度プロダクト(Collection-5)に対して適度な過大評価傾向が見られ、本研究の地表面温度プロダクトの妥当性が確認された。また本研究で作成した雲域検出手法に関しても、MODIS雲マスクプロダクトとアメダス日照時間データを用いた比較検証を行うことで、雲の検出が困難な都市域において信頼性の高い検出結果が確認された。
静止気象衛星であるひまわり8号データを用いた算出手法を構築したことで、極軌道衛星よりも高時間分解能で地表面温度の変化を捉えることが可能となった。また、日本域だけでなく中国,韓国,シンガポール,オーストラリアなどの主要都市にも均質な精度で観測が行えることから、これらの地域に適用して解析を行うことで今後都市気候研究において大きな貢献が期待される。
謝辞
ひまわり8号のデータは、気象庁の主催するひまわり8号品質評価プログラムでNICTサイエンスクラウドより提供されたものです。また可降水量推定に使用したGPS可降水量データは気象研究所より提供していただきました。
参考文献
[1] Oku and Ishikawa (2004): J. Appl. Met., 43, 548-561.
[2] Oku et al. (2006): J. Climate, 19, 2995-3003.
[3] Oku et al. (2007): J. Appl. Met. Clim., 46, 183-195.