17:15 〜 18:30
[MGI22-P09] 高速回転する薄い球殻内の熱対流により生成される表層縞状構造への力学的境界条件の影響
キーワード:巨大ガス惑星大気、縞状構造、赤道加速ジェット流、ロスビー波、木星、土星
木星と土星の表層の流れは,赤道周辺の幅の広い順行ジェットと中高緯度で交互に現われる互いに逆向きの幅の狭いジェットが特徴的である.この表層のジェットが深部領域の対流によって生成されているのか,表層の流体運動の結果なのかは未だに明らかになっていない.流体層の厚さが惑星半径に比して十分小さい「浅い」モデル,すなわち,鉛直方向の静水圧近似の仮定の下で深部からの熱流と太陽加熱によって大気の運動が駆動されるモデルでは,中高緯度の交互に表われる幅の狭いジェットは再現されるものの,赤道域のジェットは必ずしも順行方向とはならない.一方で,流体層の厚さが惑星半径に匹敵する「深いモデル」,すなわち高速回転する球殻中の熱対流モデルでは,赤道域の順行するジェットは容易に生成されるものの,中高緯度の交互に表われるジェットの生成が困難である.
このような問題に対して Heimpel and Aurnou (2007) は,これまでに考えられていた深いモデルよりも薄い球殻領域内の深部対流運動を考え,レイリー数が十分大きく内球接円筒での対流が活発な場合に,赤道域の順行流と中高緯度の交互に現われる狭いジェットが共存する状態を数値的に再現した.しかしながら,彼らの研究では経度方向に 8 回対称性を仮定しており,全球の 1/8 の領域の運動しか解いていない.このような領域の制限は流れ場全体の構造に影響を与えている可能性がある.例えば,2 次元乱流的なエネルギーの逆カスケードが十分に作用し,互い違いの縞状ジェットが生成されないかもしれない.また,生成される帯状流が不安定となって縞状ジェットが壊されてしまうかもしれない.
このような動機をもって,われわれはこれまでに薄い球殻対流の数値計算を全球で長時間行うことで,赤道域および中高緯度領域の帯状流が形成されるか否かを調べてきた.その結果,Heimpel and Aurnou (2007) の解は最終的な統計的平衡状態ではなく過渡的な状態であり,長時間積分後には縞状構造が消滅し南北中高緯度に幅広の帯状流がそれぞれ 1 本ずつ出現する状態を得た.
しかしながら,逆カスケードが十分に働いたこの解は,用いた内外境界球面における力学的境界条件がともに自由すべり条件であることに依存している可能性がある.そこで,本研究では下端境界条件を自由すべり条件から粘着条件へ変更して境界条件の影響を吟味してみた.下端で粘着条件を用いることは,実際の木星型惑星大気への応用としても現実的である.中性大気から電離大気への遷移層では速度場 MHD 抵抗が働き減速されると考えられているからである.
モデルは回転する球殻中のブシネスク流体の方程式系で構成されている.方程式系に現われる無次元数であるプラントル数を 0.1,エクマン数を 3x10-6,球殻の内径外径比を 0.85,修正レイリー数を 0.05 とした.熱境界条件は,温度固定である.力学的境界条件は上端で自由すべり,下端で粘着条件である.初期には回転系での静止状態にランダムな温度擾乱を加えた.80000 無次元時間(約 12000 回転)まで時間積分したところ,強い赤道ジェットと弱い中高緯度の縞状構造が出現した.この中高緯度の縞状構造は,両端が自由すべり条件の場合と異なり,消滅することなく 12000 無次元時間(約 19000 回転)まで維持されつづけている.このことは,下端が粘着条件のために大規模場に効率的に作用するエクマン摩擦が働き,2 次元流れの特徴であるエネルギー逆カスケードが阻害されているためであると考えられる.
謝辞 : 本研究の数値計算には海洋研究開発機構の地球シミュレータ(ES3)を用いた.
参考文献
- Heimpel, M., & Aurnou, J., Icarus, 187, 540--557, April 2007.
このような問題に対して Heimpel and Aurnou (2007) は,これまでに考えられていた深いモデルよりも薄い球殻領域内の深部対流運動を考え,レイリー数が十分大きく内球接円筒での対流が活発な場合に,赤道域の順行流と中高緯度の交互に現われる狭いジェットが共存する状態を数値的に再現した.しかしながら,彼らの研究では経度方向に 8 回対称性を仮定しており,全球の 1/8 の領域の運動しか解いていない.このような領域の制限は流れ場全体の構造に影響を与えている可能性がある.例えば,2 次元乱流的なエネルギーの逆カスケードが十分に作用し,互い違いの縞状ジェットが生成されないかもしれない.また,生成される帯状流が不安定となって縞状ジェットが壊されてしまうかもしれない.
このような動機をもって,われわれはこれまでに薄い球殻対流の数値計算を全球で長時間行うことで,赤道域および中高緯度領域の帯状流が形成されるか否かを調べてきた.その結果,Heimpel and Aurnou (2007) の解は最終的な統計的平衡状態ではなく過渡的な状態であり,長時間積分後には縞状構造が消滅し南北中高緯度に幅広の帯状流がそれぞれ 1 本ずつ出現する状態を得た.
しかしながら,逆カスケードが十分に働いたこの解は,用いた内外境界球面における力学的境界条件がともに自由すべり条件であることに依存している可能性がある.そこで,本研究では下端境界条件を自由すべり条件から粘着条件へ変更して境界条件の影響を吟味してみた.下端で粘着条件を用いることは,実際の木星型惑星大気への応用としても現実的である.中性大気から電離大気への遷移層では速度場 MHD 抵抗が働き減速されると考えられているからである.
モデルは回転する球殻中のブシネスク流体の方程式系で構成されている.方程式系に現われる無次元数であるプラントル数を 0.1,エクマン数を 3x10-6,球殻の内径外径比を 0.85,修正レイリー数を 0.05 とした.熱境界条件は,温度固定である.力学的境界条件は上端で自由すべり,下端で粘着条件である.初期には回転系での静止状態にランダムな温度擾乱を加えた.80000 無次元時間(約 12000 回転)まで時間積分したところ,強い赤道ジェットと弱い中高緯度の縞状構造が出現した.この中高緯度の縞状構造は,両端が自由すべり条件の場合と異なり,消滅することなく 12000 無次元時間(約 19000 回転)まで維持されつづけている.このことは,下端が粘着条件のために大規模場に効率的に作用するエクマン摩擦が働き,2 次元流れの特徴であるエネルギー逆カスケードが阻害されているためであると考えられる.
謝辞 : 本研究の数値計算には海洋研究開発機構の地球シミュレータ(ES3)を用いた.
参考文献
- Heimpel, M., & Aurnou, J., Icarus, 187, 540--557, April 2007.