17:15 〜 18:30
[MGI22-P10] 大気海洋海氷結合モデルによる水惑星の気候の数値実験
キーワード:水惑星、大気海洋海氷結合モデル
系外惑星で実現される表層環境の多様性の理解に向けて, 惑星大気科学者らは数値モデルによる系外惑星の気候の研究を進めている. 私たちの研究グループもまた, 惑星の気候状態決定に対する大気海洋大循環の役割の理解を深めるために, 全球海洋で覆われた惑星(水惑星)における気候状態の数値的研究を行ってきた. 例えば, Ishiwatari et al. (2007) では, 太陽定数を増減させたときに得られる水惑星の気候状態の多様性や多重性を一次元南北エネルギー・バランスモデルと三次元大気大循環モデルの両方を用いて議論した. しかし, そこでは, 海洋は熱容量ゼロの沼地(swamp ocean) として簡単に取り扱われたため, 海洋大循環は全く考慮されなかった. 実際には, もし惑星に海洋が存在するとすれば, 惑星の気候状態の決定・維持において, 海洋大循環による熱輸送もまた重要な役割を果たす. 事実, 現在地球の熱収支において, 海洋大循環による南北熱輸送は重要な役割を担うことが知られている(Trenberth and Caron, 2001). 近年, Rose et al. (2009) は, 海洋熱輸送の効果を取り入れた一次元南北エネルギー・バランスモデルを考案し, これまで知られていなかった新たな安定な気候状態の存在を示した. また, 近年の計算技術の向上は, 大気海洋海氷結合モデルを用いた水惑星の気候状態の探索を可能にしつつあり, Smith et al. (2006) やMarshall et al. (2007) は, 結合モデルによる水惑星の気候研究の先駆的研究である. その後も, 水惑星の気候状態の太陽定数依存性や自転角速度依存性, 自転傾斜角依存性が結合モデルを用いて調べられつつある. (例えば, Ferreira et al., 2011; Rose et al., 2012; Rose 2015).
大気海洋大循環の両方を考慮した水惑星の気候状態の探索に向けて, 私たちは大気大循環モデルの開発と並行して, 海洋大循環モデル, 海氷熱力学モデルを開発し, これらのモデルの結合を進めている. 筆者は, 海洋大循環モデルと海氷モデル, そしてこれらのモデルの結合に携わっている. 海洋モデルは, 流速, 温位, 塩分の大規模な分布を陽に計算し, いくつかのサブグリッド・スケールの過程(小スケールの渦や対流による混合など)の効果はパラメータ化される. 海氷モデルは一次元熱力学モデルであり, 海氷の厚さや温度を求める. これらのモデルと大気大循環モデル DCPAM (https://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/) は, カプッラー・ライブラリ(Arakawa et al., 2011) により結合される. 今後の高解像度実験や広範なパラメーター実験を念頭に, この結合モデルは幾つかの大規模計算機環境で実行可能な並列プログラムである. また, 結合系の時間積分を加速させるために以下の方法で時間積分を行う. はじめに, 結合モデルを数年間積分する. その後, その計算結果を時間平均して求めた海面フラックスを海面の境界条件として, 海洋海氷モデル単体を数百年間積分する. 結合系が準平衡状態に達するまでこのサイクルを繰り返す.
次に, 開発中の結合モデルの振る舞いを検証するために, 現在地球の惑星パラメータを与えた水惑星の気候の数値実験を試みている. 初期条件は, 静止した280 K の大気・海洋である. 結合系は, 年平均・日平均した現在地球の入射太陽放射フラックスによって駆動される. 上述した時間積分法により, 20~30サイクル(海洋4000 年積分に相当)の結合系の時間積分を現実的な計算時間で行えるようになった. この長時間積分の後に, 大気・海洋大循環や水蒸気, 温度, 塩分の子午面分布などの大まかなパターンは, 先行研究 (例えば, Marshall et al., 2007) の結果とよく似たものが得られることが分かった. その一方で, 海氷の厚さは依然として増加を続けており, それに伴い海洋の塩分濃度の増加が続いている. これらの原因は幾つか考えられるが, その一つとして海氷モデルにおいて海氷の南北輸送が考慮されていないことが挙げられる. また, 結合系の熱収支や水収支の確認を現在行っており, 海氷の厚さが増加し続けている原因の究明を進めている. したがって, 直近の課題は結合系の平衡状態を得ることである. 将来的には, 開発した結合モデルを用いて, Ishiwatari et al. (2007) の太陽定数増減実験の再試を行う予定である. そこで海洋大循環を考慮する場合と考慮しない場合の比較を行い, 水惑星で実現される多様な気候状態決定に対する大気海洋大循環の役割の理解を深めたいと考えている.
大気海洋大循環の両方を考慮した水惑星の気候状態の探索に向けて, 私たちは大気大循環モデルの開発と並行して, 海洋大循環モデル, 海氷熱力学モデルを開発し, これらのモデルの結合を進めている. 筆者は, 海洋大循環モデルと海氷モデル, そしてこれらのモデルの結合に携わっている. 海洋モデルは, 流速, 温位, 塩分の大規模な分布を陽に計算し, いくつかのサブグリッド・スケールの過程(小スケールの渦や対流による混合など)の効果はパラメータ化される. 海氷モデルは一次元熱力学モデルであり, 海氷の厚さや温度を求める. これらのモデルと大気大循環モデル DCPAM (https://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/) は, カプッラー・ライブラリ(Arakawa et al., 2011) により結合される. 今後の高解像度実験や広範なパラメーター実験を念頭に, この結合モデルは幾つかの大規模計算機環境で実行可能な並列プログラムである. また, 結合系の時間積分を加速させるために以下の方法で時間積分を行う. はじめに, 結合モデルを数年間積分する. その後, その計算結果を時間平均して求めた海面フラックスを海面の境界条件として, 海洋海氷モデル単体を数百年間積分する. 結合系が準平衡状態に達するまでこのサイクルを繰り返す.
次に, 開発中の結合モデルの振る舞いを検証するために, 現在地球の惑星パラメータを与えた水惑星の気候の数値実験を試みている. 初期条件は, 静止した280 K の大気・海洋である. 結合系は, 年平均・日平均した現在地球の入射太陽放射フラックスによって駆動される. 上述した時間積分法により, 20~30サイクル(海洋4000 年積分に相当)の結合系の時間積分を現実的な計算時間で行えるようになった. この長時間積分の後に, 大気・海洋大循環や水蒸気, 温度, 塩分の子午面分布などの大まかなパターンは, 先行研究 (例えば, Marshall et al., 2007) の結果とよく似たものが得られることが分かった. その一方で, 海氷の厚さは依然として増加を続けており, それに伴い海洋の塩分濃度の増加が続いている. これらの原因は幾つか考えられるが, その一つとして海氷モデルにおいて海氷の南北輸送が考慮されていないことが挙げられる. また, 結合系の熱収支や水収支の確認を現在行っており, 海氷の厚さが増加し続けている原因の究明を進めている. したがって, 直近の課題は結合系の平衡状態を得ることである. 将来的には, 開発した結合モデルを用いて, Ishiwatari et al. (2007) の太陽定数増減実験の再試を行う予定である. そこで海洋大循環を考慮する場合と考慮しない場合の比較を行い, 水惑星で実現される多様な気候状態決定に対する大気海洋大循環の役割の理解を深めたいと考えている.