11:00 〜 11:15
[MIS06-08] 三酸素同位体組成で探る森林小集水域における渓流水中の硝酸の起源
キーワード:窒素飽和、三酸素同位体組成、森林生態系
森林生態系は一般にNO3-やNH4+などの窒素栄養塩(窒素)が欠乏していることが多いが、窒素負荷量が慢性的に多い森林生態系などでは、多量の窒素がNO3-の形で渓流水などを通じて流出する窒素飽和と呼ばれる現象が見られる。高NO3-濃度渓流水の流出は、下流域の湖沼や沿岸海域の生態系に対して、深刻な影響をもたらす可能性があるため、NO3-に富んだ渓流水中のNO3-の起源や挙動を明らかにすることは極めて重要である。特に大気から森林生態系に沈着し、吸収や分解を受けずに直接流出するNO3-(大気NO3-)は、森林生態系内の窒素循環の活発さを反映して流出量が決まる可能性が高く、その定量化は極めて重要である。
これまで渓流水中のNO3-の起源や挙動の解析にはδ15Nやδ18Oが用いられてきたが、一般の化学反応で変化しない三酸素同位体組成(Δ17O=δ17O-0.52×δ18O)指標を合わせて用いることで、より有用な起源や挙動の解析ができる可能性がある。そこで本研究では、大気からの窒素沈着量が比較的多く、流出する渓流水中のNO3-濃度も高い加治川試験地(新潟県)において、Δ17Oを主要な指標に用いて渓流水中のNO3-に占める大気NO3-を定量化した。またこれをもとに渓流水中のNO3-が高濃度化している原因を調べた。具体的には、環境省越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング事業を通じて、降水、渓流水、土壌水(深さ20cm~60cm)をひと月程度の間隔で2年間に渡って採取した。
各試料中のNO3-濃度はイオンクロマトグラフを用いて定量し、NO3-の各同位体組成(δ15N、δ18O、Δ17O)はChemical Convesion法を用いてNO3-をN2O化またはO2化した後、連続フロー型質量分析システムで定量した。
土壌水中のNO3-のΔ17Oは+0‰から+6‰までの大きな季節変化を示すものの、NO3-濃度で加重平均したΔ17O値(+0.8‰)は、同じく渓流水中のNO3-濃度で加重平均したΔ17O値(+1.3‰)とほぼ一致していた。これは土壌水が浸透し地下水となり、ある程度平滑化されたうえで渓流水として流出していることを反映するもので、渓流水の主要供給源は地下水であることを示すものと考えられる。
さらに、加治川試験地に沈着するすべてのNO3-のうち何割が直接大気NO3-として渓流水に流出するか、Δ17Oを指標に用いて見積もった。その結果、9.2±4.4%という値を得た。これは、Roseら(2015)が窒素飽和が起きている集水域で報告している値と整合的であった。さらに、Tsunogaiら(2014)は、伐採地から流出する渓流水では、この大気NO3-の直接流出率が30~40%に達することを報告している。これらの観測値は、渓流水などを通じた大気NO3-の直接流出率は、森林生態系内の窒素循環が活発か否かを反映していることを示している。
これまで欧米では、渓流水中のNO3-濃度の絶対値以外に、NO3-の季節変動の有無が窒素飽和の指標として用いられてきた(Stoddard, 1994)。しかし日本では窒素飽和の起きていない健全林であっても季節変動が喪失することをMitchellら(1997)が報告している。つまり日本では、渓流水中のNO3-濃度の季節変化の喪失を窒素飽和の指標として用いることはできず、日本における窒素飽和の指標はNO3-濃度だけであった。Δ17Oを用いて算出される大気NO3-の直接流出率は季節変化の喪失に代わる新たな窒素飽和の指標となる可能性が高い。
これまで渓流水中のNO3-の起源や挙動の解析にはδ15Nやδ18Oが用いられてきたが、一般の化学反応で変化しない三酸素同位体組成(Δ17O=δ17O-0.52×δ18O)指標を合わせて用いることで、より有用な起源や挙動の解析ができる可能性がある。そこで本研究では、大気からの窒素沈着量が比較的多く、流出する渓流水中のNO3-濃度も高い加治川試験地(新潟県)において、Δ17Oを主要な指標に用いて渓流水中のNO3-に占める大気NO3-を定量化した。またこれをもとに渓流水中のNO3-が高濃度化している原因を調べた。具体的には、環境省越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング事業を通じて、降水、渓流水、土壌水(深さ20cm~60cm)をひと月程度の間隔で2年間に渡って採取した。
各試料中のNO3-濃度はイオンクロマトグラフを用いて定量し、NO3-の各同位体組成(δ15N、δ18O、Δ17O)はChemical Convesion法を用いてNO3-をN2O化またはO2化した後、連続フロー型質量分析システムで定量した。
土壌水中のNO3-のΔ17Oは+0‰から+6‰までの大きな季節変化を示すものの、NO3-濃度で加重平均したΔ17O値(+0.8‰)は、同じく渓流水中のNO3-濃度で加重平均したΔ17O値(+1.3‰)とほぼ一致していた。これは土壌水が浸透し地下水となり、ある程度平滑化されたうえで渓流水として流出していることを反映するもので、渓流水の主要供給源は地下水であることを示すものと考えられる。
さらに、加治川試験地に沈着するすべてのNO3-のうち何割が直接大気NO3-として渓流水に流出するか、Δ17Oを指標に用いて見積もった。その結果、9.2±4.4%という値を得た。これは、Roseら(2015)が窒素飽和が起きている集水域で報告している値と整合的であった。さらに、Tsunogaiら(2014)は、伐採地から流出する渓流水では、この大気NO3-の直接流出率が30~40%に達することを報告している。これらの観測値は、渓流水などを通じた大気NO3-の直接流出率は、森林生態系内の窒素循環が活発か否かを反映していることを示している。
これまで欧米では、渓流水中のNO3-濃度の絶対値以外に、NO3-の季節変動の有無が窒素飽和の指標として用いられてきた(Stoddard, 1994)。しかし日本では窒素飽和の起きていない健全林であっても季節変動が喪失することをMitchellら(1997)が報告している。つまり日本では、渓流水中のNO3-濃度の季節変化の喪失を窒素飽和の指標として用いることはできず、日本における窒素飽和の指標はNO3-濃度だけであった。Δ17Oを用いて算出される大気NO3-の直接流出率は季節変化の喪失に代わる新たな窒素飽和の指標となる可能性が高い。