13:45 〜 14:00
[MIS06-13] 大気汚染物質の硫酸による世界の樹木の被害
キーワード:大気汚染物、硫酸、木炭
はじめに
大気汚染物質は化石燃料の燃焼で発生する二酸化炭素の量に比例して硫黄酸化物も発生する。大気中で硫黄酸化物は安定な硫酸になる。硫酸はグリーンランドの1785年のアイスコアから硫酸イオンとして測定され1)、化石燃料は230年間も世界中で燃焼を続けている。南半球の極渦や北半球の偏西風の通過道の樹木は、大気中の硫酸を捕集して、濃縮と蓄積で濃度が高くなり、雨水で根元に落とされる。硫酸は土壌の金属成分(Al, Fe)を可溶性の硫酸化合物にし、雨水に溶解した金属イオンは水と樹木に吸収される。共存物質は結合力の最も強い化合物になる原則に従い、金属イオンは樹木のリン酸化合物からリン酸を奪い、不溶性の金属リン酸塩になる。金属リン酸塩はリン酸が不活性化して、樹種に関係なくリン酸不足と同じ現象になって衰退し、病虫害に対する抵抗性を失う。
調査と結果
南半球のアルゼンチンのフェゴ島(2000年)は、極渦が通過する山の斜面を流れ落ちた雨水の硫酸イオン濃度は、近くの湧き水の170倍ある。南極ブナは40年以上前から枯れている。地上はコケ類だけで、草も消滅している。ニュージーランド南島(2001)の山脈の西側と南端の木は、樹種に関係なく枯れている。枯れ枝からぶら下がって生育するサルオガセの水による溶出液の硫酸イオン濃度は、原生林内より林縁が65倍高い。オーストラリア最西端のパース(2000)のユーカリの林縁の木は全滅している。北半球では、硫酸を含む偏西風は、日本(1995~2015)の針葉樹や広葉樹を枯らし、太平洋を越えてカナダのブリテシュコロンビア州南西部(2009)2)の針葉樹を枯らしている。偏西風はアメリカの五大湖付近の火力発電所から硫酸を補給して、アデロンダック地方(1999)のバルサモミを枯らし、大西洋を越えて、ドイツ(2002)のトウヒを枯らしている。
ハワイ島(北緯20度)(2006)は山の北側の樹木が枯れ、アメリカの南のドミニカ共和国(北緯18度)(2003)は北向き斜面の原生林が消滅している。木が枯れる理由は、赤道近辺は気温が高いため、上昇気流で北半球の硫酸を含む大気が引き寄せられて土壌が酸性化する。この事実から、極渦の硫酸濃度が高い理由は、上昇気流で上空に上がった硫酸を含む大気は冷却されて重くなり、両極に分かれて移動する。南極周囲は北半球より陸が少ないために、極渦の強い西風は年間200日以上も吹き、硫酸は雨や雪に溶解して落ち無い限り、極渦の中に蓄積されて濃度が高くなる。
樹木が金属イオンを吸収する証は、15mのアカマツ材を3m置きに切って定量すると、吸収したアルミニウムはリンと平行して存在し、化合したリン酸アルミニウムは不溶性のために化合した場所に止まる。砂鉄を含む土壌に硫酸が加わると二価の鉄イオンが溶出し、アカマツに吸収されてリン酸と化合すると、固有の暗青色のリン酸第一鉄になる。アカマツの幹は縦に割ると、中心の水を通さない部分を除いて、根元から先端近くまで着色している。横に切った面は年輪に平行して、水の通るところが着色している。リン酸第一鉄は大気中の水分を吸収して加水分解して水酸化第二鉄になり、錆色に変化する。この現象は鉄イオンが樹木に吸収されてリン酸と化合した証になる。マツが変色する土壌の砂鉄は2~6%を含み、変色しない土壌は1%以下である。
男鹿市の防風林のマツは2003年に全滅して白骨化していた。その近くの1993年に植林したマツは、2003年から木炭を毎年撒いた結果、現在も生長を続けている。佐渡島の梢枯れをしたナラ林は、2011年と2012年に木炭を約1kg/1m2を撒いた結果、2014年に実を落とし、2015年に発芽した。木炭は樹木の必須元素のカリウムを含み、雨水が加わるとアルカリ溶液になり、酸性土壌を中和し、溶出していた金属イオンを金属水酸化物に変えるために、金属イオンは樹木が吸収出来なくなり、リン酸は保護される。
まとめ
被害樹木は、酸性土壌を木炭で中和すると再生することから、化石燃料の燃焼により発生する硫酸が土壌を酸性化して金属イオンを溶出し、樹木が吸収し、不溶性の金属リン酸化合物になり、必須元素のリン酸が不活性化する結果である。
文献
1) 渡邉興亜・本山秀明・牛尾収輝・森本真(2003)遺伝、別冊17号、58-68.
2) 環境異変(2009)共同通信社発行.
・ 大森禎子・吉池雄藏(2001)分析化学、50、465-472.
・ 大森禎子(2010)河川文化を語る会講演集(その30)、85-163、日本河川会発行.
・ 大森禎子・岩崎真理(2010)木質炭化学会誌、7、3-11.
・ 大森禎子(2013)日本奥山学会誌、1、3-18.
・ 大森禎子(2015)日本奥山学会誌、3、68-79.
大気汚染物質は化石燃料の燃焼で発生する二酸化炭素の量に比例して硫黄酸化物も発生する。大気中で硫黄酸化物は安定な硫酸になる。硫酸はグリーンランドの1785年のアイスコアから硫酸イオンとして測定され1)、化石燃料は230年間も世界中で燃焼を続けている。南半球の極渦や北半球の偏西風の通過道の樹木は、大気中の硫酸を捕集して、濃縮と蓄積で濃度が高くなり、雨水で根元に落とされる。硫酸は土壌の金属成分(Al, Fe)を可溶性の硫酸化合物にし、雨水に溶解した金属イオンは水と樹木に吸収される。共存物質は結合力の最も強い化合物になる原則に従い、金属イオンは樹木のリン酸化合物からリン酸を奪い、不溶性の金属リン酸塩になる。金属リン酸塩はリン酸が不活性化して、樹種に関係なくリン酸不足と同じ現象になって衰退し、病虫害に対する抵抗性を失う。
調査と結果
南半球のアルゼンチンのフェゴ島(2000年)は、極渦が通過する山の斜面を流れ落ちた雨水の硫酸イオン濃度は、近くの湧き水の170倍ある。南極ブナは40年以上前から枯れている。地上はコケ類だけで、草も消滅している。ニュージーランド南島(2001)の山脈の西側と南端の木は、樹種に関係なく枯れている。枯れ枝からぶら下がって生育するサルオガセの水による溶出液の硫酸イオン濃度は、原生林内より林縁が65倍高い。オーストラリア最西端のパース(2000)のユーカリの林縁の木は全滅している。北半球では、硫酸を含む偏西風は、日本(1995~2015)の針葉樹や広葉樹を枯らし、太平洋を越えてカナダのブリテシュコロンビア州南西部(2009)2)の針葉樹を枯らしている。偏西風はアメリカの五大湖付近の火力発電所から硫酸を補給して、アデロンダック地方(1999)のバルサモミを枯らし、大西洋を越えて、ドイツ(2002)のトウヒを枯らしている。
ハワイ島(北緯20度)(2006)は山の北側の樹木が枯れ、アメリカの南のドミニカ共和国(北緯18度)(2003)は北向き斜面の原生林が消滅している。木が枯れる理由は、赤道近辺は気温が高いため、上昇気流で北半球の硫酸を含む大気が引き寄せられて土壌が酸性化する。この事実から、極渦の硫酸濃度が高い理由は、上昇気流で上空に上がった硫酸を含む大気は冷却されて重くなり、両極に分かれて移動する。南極周囲は北半球より陸が少ないために、極渦の強い西風は年間200日以上も吹き、硫酸は雨や雪に溶解して落ち無い限り、極渦の中に蓄積されて濃度が高くなる。
樹木が金属イオンを吸収する証は、15mのアカマツ材を3m置きに切って定量すると、吸収したアルミニウムはリンと平行して存在し、化合したリン酸アルミニウムは不溶性のために化合した場所に止まる。砂鉄を含む土壌に硫酸が加わると二価の鉄イオンが溶出し、アカマツに吸収されてリン酸と化合すると、固有の暗青色のリン酸第一鉄になる。アカマツの幹は縦に割ると、中心の水を通さない部分を除いて、根元から先端近くまで着色している。横に切った面は年輪に平行して、水の通るところが着色している。リン酸第一鉄は大気中の水分を吸収して加水分解して水酸化第二鉄になり、錆色に変化する。この現象は鉄イオンが樹木に吸収されてリン酸と化合した証になる。マツが変色する土壌の砂鉄は2~6%を含み、変色しない土壌は1%以下である。
男鹿市の防風林のマツは2003年に全滅して白骨化していた。その近くの1993年に植林したマツは、2003年から木炭を毎年撒いた結果、現在も生長を続けている。佐渡島の梢枯れをしたナラ林は、2011年と2012年に木炭を約1kg/1m2を撒いた結果、2014年に実を落とし、2015年に発芽した。木炭は樹木の必須元素のカリウムを含み、雨水が加わるとアルカリ溶液になり、酸性土壌を中和し、溶出していた金属イオンを金属水酸化物に変えるために、金属イオンは樹木が吸収出来なくなり、リン酸は保護される。
まとめ
被害樹木は、酸性土壌を木炭で中和すると再生することから、化石燃料の燃焼により発生する硫酸が土壌を酸性化して金属イオンを溶出し、樹木が吸収し、不溶性の金属リン酸化合物になり、必須元素のリン酸が不活性化する結果である。
文献
1) 渡邉興亜・本山秀明・牛尾収輝・森本真(2003)遺伝、別冊17号、58-68.
2) 環境異変(2009)共同通信社発行.
・ 大森禎子・吉池雄藏(2001)分析化学、50、465-472.
・ 大森禎子(2010)河川文化を語る会講演集(その30)、85-163、日本河川会発行.
・ 大森禎子・岩崎真理(2010)木質炭化学会誌、7、3-11.
・ 大森禎子(2013)日本奥山学会誌、1、3-18.
・ 大森禎子(2015)日本奥山学会誌、3、68-79.