日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS07] ジオパーク

2016年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 101A (1F)

コンビーナ:*尾方 隆幸(琉球大学教育学部)、植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、藁谷 哲也(日本大学大学院理工学研究科)、平松 良浩(金沢大学理工研究域自然システム学系)、有馬 貴之(帝京大学 経済学部 観光経営学科)、大野 希一(島原半島ジオパーク協議会事務局)、松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、座長:大野 希一(島原半島ジオパーク協議会事務局)

09:15 〜 09:30

[MIS07-02] 糸魚川ジオパークにおける18~19世紀石造物の花崗岩石材

*先山 徹1 (1.兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)

キーワード:花崗岩、石造物、帯磁率

中世以降、日本の神社や仏閣には多くの石造物が存在する。それらの石材産地を同定することは、当時の交通や文化を知る上で重要である。岩石の正確な同定にはその化学組成や鉱物組み合わせを正確に把握する必要があるが、石造物の同定は非破壊でなされるのが原則である。そこで筆者は石材の帯磁率測定と岩相の違いに歴史的な記述を加えて、総合的に石材産地を判断してきた。
糸魚川ジオパークの神社には、18世紀~19世紀前半の狛犬、鳥居、五輪塔、灯籠など花崗岩の石造物が多く存在する。その中には石工の銘が入った石造物があり、大半が広島県尾道の石工である(能生ふるさとサークル,2005)。また、同時にそれらは北前船で運ばれてきたことが知られている。このことは以下に示す三つの可能性を示唆している。
(1)尾道で採取された石材を尾道の石工が加工した。
(2)尾道の石工が尾道に集積された他地域の花崗岩を加工した。
(3)尾道の石工が糸魚川へ来て加工した。
そこでまず、糸魚川に存在する石造物について岩石記載と帯磁率測定を行った。糸魚川ジオパークの石造物は多くが3×10-3SI以下で、石原によるチタン鉄鉱系に属する。これらを詳しく見ると、大きく二つのタイプの花崗岩からなることが明らかになった。
岩相A:中粒で等粒状の黒雲母花崗岩で、白色~淡桃色の花崗岩を含む。これらは3×10-5SI~1×10-3SIの低い帯磁率を示す。
岩相B:角閃石黒雲母花崗岩である。白色~淡桃色自形で最大長径2cmのカリ長石斑晶を含む。また最長1cmの針状~長柱状の角閃石を含む。前者と比べて有色鉱物に富み、しばしば直径10cm前後の苦鉄質包有岩を含む。これらの帯磁率は1×10-3SI~5×10-3SIの範囲に入る。
つぎに尾道市の花崗岩について同様の観察を行った。尾道地域は山陽帯の花崗岩類からなり、千光寺周辺および浄土寺山の斜面に採石跡の残る岩塊が分布している(尾道市教育委員会,2014)。それらは中粒の角閃石黒雲母花崗岩で、長径1~4cmのカリ長石斑晶、自形の角閃石を特徴的に含む。多くの岩石は1×10-3SI~4×10-3SIの帯磁率を示し、露頭ごとの変化は少ない。糸魚川ジオパーク内の石材花崗岩のうち岩相Bのものはこの尾道地域の花崗岩類と類似し、これらが尾道から運ばれてきた可能性を示唆している。さらに、尾道市内のいくつかの古寺に存在する石造物で石工の銘のある花崗岩も、ほぼすべてが岩相Bと同様の岩石であり、背後の山地から採石されたものであると考えられる。一方、糸魚川の石材のうち岩相Aに相当するものは、少なくとも今回尾道地域で調査した範囲には存在しない。
糸魚川ジオパーク内の尾道の石工銘がある石造物のうち岩相Aの花崗岩はある程度の数を示しているのに対して、尾道の石材産地および石造物に見られないことは、これらが別の産地から運ばれてきた可能性を示している。このことは尾道が石材産地としてだけではなく石材の集積地で栄えたことを示すかもしれない。したがって、糸魚川ジオパークで見られる石材には尾道産の花崗岩を尾道の石工が加工したものと、他地域の花崗岩を尾道の石工が加工したものとが含まれていると考えられる。
文献
能生ふるさとサークル(2005)糸魚川沿岸地域の備後尾道石工の石造物と能生地区の回船.
尾道市教育委員会(2014)尾道の石造物と石工.尾道市文化財調査報告書,第1集.