日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 津波堆積物

2016年5月26日(木) 13:45 〜 14:45 国際会議室 (2F)

コンビーナ:*後藤 和久(東北大学災害科学国際研究所)、宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、西村 裕一(北海道大学大学院理学研究院)、座長:西村 裕一(北海道大学大学院理学研究院)

14:10 〜 14:35

[MIS11-13] 数値解析を用いた津波堆積物研究の現状と今後

★招待講演

*菅原 大助1Jaffe Bruce2Gelfenbaum Guy2La Selle SeanPaul2後藤 和久3 (1.ふじのくに地球環境史ミュージアム、2.米国地質調査所、3.東北大学)

キーワード:津波、土砂移動モデル、シミュレーション、堆積物、海岸地形

本発表では,土砂移動考慮した津波の数値解析について,最近の研究をレビューするとともに,今後の展望について議論する.
災害科学における津波堆積物研究の意義は,古津波の履歴解明・規模情報の推定にある.津波の数値解析は,1990年代より津波堆積物研究を構成する要素の一つとなり,津波イベントの認定,浸水域・波源域の推定など,地質記録の解釈を裏付ける手段として用いられてきた.土砂移動と連成された津波数値解析の手法は,2011年の東北地方太平洋沖地震の津波の前後,更にはリアルタイムに取得された多くのデータが基盤となり,追波湾 [1],広田湾 [2],仙台平野 [3]などを事例として改良と検証が進められており,波源モデルや地形データ,堆積物の供給源・粒径などの解析条件が整っている場合,津波による海岸地形の変化パターン,海底での侵食・堆積量,および陸上津波堆積物の層厚の分布傾向を良好に再現できることが示されている.津波土砂移動シミュレーションは,巨大津波に対する事前・事後の対策・対応の計画,津波堆積物を用いた浸水域・波源域の推定手法の改良,古津波堆積物の探索における最適な調査地域の検討などに有用であろう.
津波堆積物データが不足している場合,あるいは古地形などの解析条件に不確実性がある場合,津波土砂移動シミュレーションを用いて浸水域や波源域を絞り込むことは難しくなる.この問題に対するアイディアの一つとして,ハイブリッド・モデリング [4][5]がある.津波の水理量(例えば流速や摩擦速度)を,堆積物データの逆解析によって直接推定し,順解析を用いた浸水域・波源域の推定時の境界条件として与えるのである.順解析は同時に,逆解析モデルの適用条件を評価するためにも用いられる.このアイディアの実現には,取り扱う物理過程やパラメータの共有化など多くの課題があるが,限られた数のデータで津波の規模情報を推定するための有望な方法の一つと思われる.
海岸地形・地層の形成における津波堆積作用の役割や,津波堆積物形成のプロセスも,津波堆積物研究の重要な対象である.津波堆積物中のユニット構造,ラミナ,粒度の水平・鉛直方向の変化を形成するプロセスについて,数値解析を用いた検討例は極めて少なく,実際に観察された堆積構造との対比には至っていない [6][7].数値モデルによって津波堆積物の内部構造を解像できるようになれば,侵食・堆積量といった最終的な状態の比較だけでなく,堆積物形成プロセスの再現性まで議論できるようになると思われる.そのような数値モデル(地層シミュレータ)と,津波を含む様々な営力の数値モデルを組み合わせることで,それぞれのイベント堆積作用の理解と地層記録の解釈に更なる進歩がもたらされると考えられる.

[1] 今井ら,2015,土木学会論文集B2 71, I_247_I-252.
[2] 山下ら,2015,土木学会論文集B2 71, I_499_I-504.
[3] Sugawara et al., 2014a, Marine Geology 358, 18-37.
[4] Jaffe et al., 2012, Sedimentary Geology 282, 90-109.
[5] Sugawara et al., 2014b, Marine Geology 352, 295-320.
[6] Apotsos et al., 2011, Journal of Geophysical Research 116, F01006.
[7] Li et al., 2012, Natural Hazards 64, 1549-1574.