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[MIS12-09] 液相からの気泡核生成の大規模分子動力学計算による気泡表面張力の算出
キーワード:気泡核生成、表面エネルギー、ナノ粒子、分子動力学計算
液体からの気泡生成は様々な分野に関わる重要な現象のひとつであるが、その気泡の核生成過程についての理解は未だ限られている。古典的核形成理論は、核形成過程の巨視的記述を与え広く用いられているが、理論から得られる核生成率は実験や分子動力学(MD)シミュレーションからの得られる核生成率と大きくずれることが指摘されている。例えば、従来のMD計算から得られた気泡の生成率は古典的理論と比較すると、ほとんどの場合において古典的理論の核生成率よりも3桁から20桁程度も高くなる結果が得られているが、その原因は未だ明らかではない [1]。我々は LAMMPS を用いて 5 億体のレナードジョーンズ(LJ)分子から成る液相からの気泡核生成の分子動力学(MD)計算を行った。温度はT/(ε/k)= T*=0.6-0.86 (εはLJ 系のエネルギー単位,kはボルツマン係数)、圧力 P は‐300<P/Peq<0.5 (Peq は平衡蒸気圧)のさまざなま範囲において、NVE 系のもとで気泡が生成し成長する様子を観察した。従来の MD 計算の多くは初めの気泡が形成される時間から核生成率を見積もる MFPT 法(the mean first passagetimes)が用いられてきたが、本研究では複数の気泡の発生から核生成率を求める方法(Yasuoka-Matsumoto method)を用いて正確に核生成率を求めることに成功した。また気泡のサイズ分布から気泡生成のための自由エネルギーの算出や気泡の物理的性質など詳細な解析を行った [1,2]。我々が得た核生成率は、古典的理論から得た値と高温で一致する一方、低温では大きくずれ、理論値より大きくなる。この古典的理論とのずれは以下のように説明される。従来の理論では核生成率Jの表式はJ=J0 exp(-∆G/kT)であり、プレファクターJ0は液体圧力に依らない一定の値とされてきた(但し、∆G は核生成の自由エネルギー)。しかし一方で、J0 は臨界核付近での気泡の成長率により決定し、液体圧力に大きく依存することが指摘されている[3]。とくに液体圧力と平衡圧力の差が十分大きい場合には、気泡の周りの流体の慣性や粘性が効き、上記のプレファクターと数桁異なる[4]。正確なプレファクターを用いて得られた核生成理論とMD計算を比較することによりナノサイズの気泡の表面張力を算出できる。これら2つの古典的理論の改良により多くの MD 計算や実験が説明可能である。
[1] J. Diemand et al., Phys. Rev. E, 90, 052407 (2014).
[2] R. Angelil et al., Phys. Rev. E, 90, 063301 (2014).
[3] Y. Kagan, Russ. J. Phys. Chem. 34, 42 (1960).
[4] K. K. Tanaka et al., Phys. Rev. E, 92, 022401 (2015).
[1] J. Diemand et al., Phys. Rev. E, 90, 052407 (2014).
[2] R. Angelil et al., Phys. Rev. E, 90, 063301 (2014).
[3] Y. Kagan, Russ. J. Phys. Chem. 34, 42 (1960).
[4] K. K. Tanaka et al., Phys. Rev. E, 92, 022401 (2015).