日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] 遠洋域の進化

2016年5月23日(月) 09:00 〜 10:30 203 (2F)

コンビーナ:*松岡 篤(新潟大学理学部地質科学科)、栗原 敏之(新潟大学大学院自然科学研究科)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、尾上 哲治(熊本大学大学院自然科学研究科)、木元 克典(独立行政法人海洋研究開発機構)、野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、植田 勇人(新潟大学理学部地質科学科)、小林 健太(新潟大学理学部地質科学科)、長谷川 卓(金沢大学自然システム学系)、座長:松岡 篤(新潟大学理学部地質科学科)、栗原 敏之

09:45 〜 10:00

[MIS13-04] 美濃帯および秩父帯の三畳系~ジュラ系層状チャートから産出する溶融宇宙塵に関する研究

*三浦 光隆1尾上 哲治1 (1.熊本大学 理学部 地球環境科学コース)

キーワード:宇宙塵、中期三畳紀、前期ジュラ紀、秩父帯、美濃帯、層状チャート

宇宙塵とは,宇宙空間に存在する,直径1 mm以下の固体微粒子のことである.宇宙塵の地球への流入量は,年間 約40000±20000トンと見積もられており,その起源は主に彗星の塵や小惑星の衝突によるものであると考えられている.そのた め,宇宙塵の流入量は小惑星帯での衝突イベントや太陽系内における短周期彗星の数により変動すると考えられ,過去の地質時代における宇宙 塵の流入量を解明することができれば,太陽系内の小惑星衝突イベントなどが復元できる可能性が示唆されている.従来の研究では,堆積岩中 に含まれる宇宙塵の含有量が,当時の地球表層に到達する宇宙塵フラックスを表していると仮定して研究が進められてきた.しかし,堆積岩の 宇宙塵含有量における変動要因についてはこれまで研究されておらず,実際に堆積岩中に含まれる宇宙塵の量が何に起因しているかは不明なま まであった.そこで本研究では,先行研究において宇宙塵の回収が報告されている秩父帯の網代島周辺および美濃帯の犬山地域の三畳系〜ジュ ラ系層状チャートを対象とし,宇宙塵含有量の変動要因として考えられる5つ の事象(サンプル量,回収法,海洋の酸化還元状態,堆積速度,宇宙塵のフラックス)について検討を行った.
本研究では,まず網代島に分布する中部三畳系層状チャートのう ち,従来の研究で宇宙塵が回収されていない層準に対して試料の量を増やし(粉砕法:2~5倍,HF酸 法:約100倍) 宇宙塵の回収を試みた.しかし研究の結果,これらの層準からは宇宙塵は回収できないことが明らかになった.また,犬山地域では宇宙塵の回 収が報告されている三畳紀/ジュラ紀境界付近の15層 準に対して,先行研究と同量の試料を用いて宇宙塵の回収を試みた.その結果,最前期ジュラ紀の5層 準から計72個 の宇宙塵候補を回収した.これらの結果から,サンプル量や回収方法は,先行研究で報告されている宇宙塵含有量の研究結果を大きく変えるも のではないことが示された.次に堆積当時の酸化還元状態が,宇宙塵の含有量に関係するかについて検証するため,蛍光X線 分析による全岩化学分析を行い,酸化還元に鋭敏な元素(V,Ni, Crなど)の含有量を検討した.その結果,宇宙塵が多産する層準とそうでない層準では,酸化還元状態に変化はな く,これも宇宙塵含有量とは関係がないことが明らかになった.最後に堆積速度については,珪質部−泥 質部1セッ トあたりの堆積期間が一定(20±2 kyr)と仮定して堆積速度と宇宙塵含有量の相関を検討した.しかし,堆積速度に応じて宇宙塵含有量が変動するとい う明確な証拠は得られなかった.
層状チャート中の宇宙塵含有量の変動要因としては,当時の宇宙 塵フラックスの変動を表している可能性が残された.SEM-EDS分析により宇宙塵と同定された粒子の密度と粒径から堆積物中に含まれる宇宙塵の含有量を求めたところ,従来の 研究と同様に三畳紀中期とジュラ紀最前期に宇宙塵多産層準がみられることが明らかになった.宇宙塵の流入量は,小惑星帯での衝突イベント や太陽系内における短周期彗星の数により変動すると考えられているため,今後は堆積速度をより詳細に決定することで,より正確な宇宙塵の フラックス変動や太陽系内の小惑星衝突イベントを復元できる可能性がある.