14:55 〜 15:15
[MIS15-05] 氷期の大気中二酸化炭素変動に果たす南大洋の役割
★招待講演
キーワード:炭素循環、氷期–間氷期サイクル、南大洋、子午面循環、堆積モデル
過去約 80 万年間の気候は、約 10 万年の周期で温暖な気候と寒冷な気候が繰り返し起こる氷期–間氷期サイクルと呼ばれる気候変動で特徴づけられる。氷期の大気中二酸化炭素濃度(pCO2atm)は、間氷期と比べて約 100 ppmv 低かったことが知られている。これまでにその変動メカニズムに迫るため、海洋大循環モデル(Ocean General Circulation Model: OGCM) を用いた数値実験が多く行われてきたが、モデルでは pCO2atm の変動を再現することができず、メカニズムの詳細には未解明な点が多く残っている。
古気候プロキシを用いた古気候復元から、約 2 万年前の最終氷期には、南大洋底層に高塩分かつ水塊年齢が非常に古い水が存在していたことが示唆されている。これは、氷期の南大洋は塩分による成層が強く、表層から隔離された深層に多量の炭素が保持されていた可能性を示す。そのため、南大洋は氷期–間氷期の pCO2atm の変動メカニズムを議論する上で、重要な海域であることが認識されつつある。本研究では、古気候復元から推測された氷期の南大洋における深層の塩分や水塊年齢の分布を再現したうえで、氷期–間氷期の pCO2atm の変動に対する南大洋の物理過程の寄与を、OGCM を用いた数値実験で定量的に評価した。数値実験の結果から、氷期の南大西洋深層における高塩分データを説明するためには、東南極における深層水形成が重要であったが、そのような塩分場は、海洋の子午面循環の南極底層水起源の北向き流量を増加させるため、海洋中の炭素の滞留時間が小さくなり、pCO2atm を増加させる方向にはたらくことがわかった。一方、成層の強化に伴う鉛直混合の弱化を考慮すると、溶存無機炭素の鉛直勾配が大きくなるため、pCO2atm を減少させる。しかしながら、これら南大洋物理場の変化に加え、海面水温の低下、海洋循環場の変化、鉄肥沃化の寄与のすべてを合わせても、モデルでは氷期の pCO2atm の低下の半分程度しか説明できないことがわかった (Kobayashi et al., 2015)。
氷期–間氷期の pCO2atm 変動のような千年スケールの海洋炭素循環変動を議論する上では、炭酸塩の堆積・溶解によるフィードバック作用である炭酸塩補償過程を考慮する必要がある。氷期には、深層での溶存無機炭素濃度が増加するため、炭酸塩は溶解しやすくなる。炭酸塩の溶解は二酸化炭素分圧を減少させる方向にはたらき、氷期のpCO2atm の低下にも寄与していた可能性が高いと考えられる。これまでの我々の数値実験では、海底に到達した粒子状有機物や炭酸塩は、海底でただちに溶解すると仮定していたため、炭酸塩補償過程を考慮することができていなかった。炭酸塩補償過程の影響を定量的に評価するためには、これまでの海洋内部での再循環のみを考慮した”クローズドシステム“から、海洋と海洋堆積層との物質のやり取りを陽に考慮する”オープンシステム“へとモデルを切り替える必要がある。現在、そのために、新たに海底堆積物モデルを開発し、それをOGCMと結合して数値実験を行うことで、炭酸塩補償過程を含む”オープンシステム“において、氷期のpCO2atm の低下がどのように説明されるのか、改めて定量的に議論することを目指して研究を進めている。講演では、新たに開発した堆積モデルによる数値実験の結果についても報告したいと考えている。
古気候プロキシを用いた古気候復元から、約 2 万年前の最終氷期には、南大洋底層に高塩分かつ水塊年齢が非常に古い水が存在していたことが示唆されている。これは、氷期の南大洋は塩分による成層が強く、表層から隔離された深層に多量の炭素が保持されていた可能性を示す。そのため、南大洋は氷期–間氷期の pCO2atm の変動メカニズムを議論する上で、重要な海域であることが認識されつつある。本研究では、古気候復元から推測された氷期の南大洋における深層の塩分や水塊年齢の分布を再現したうえで、氷期–間氷期の pCO2atm の変動に対する南大洋の物理過程の寄与を、OGCM を用いた数値実験で定量的に評価した。数値実験の結果から、氷期の南大西洋深層における高塩分データを説明するためには、東南極における深層水形成が重要であったが、そのような塩分場は、海洋の子午面循環の南極底層水起源の北向き流量を増加させるため、海洋中の炭素の滞留時間が小さくなり、pCO2atm を増加させる方向にはたらくことがわかった。一方、成層の強化に伴う鉛直混合の弱化を考慮すると、溶存無機炭素の鉛直勾配が大きくなるため、pCO2atm を減少させる。しかしながら、これら南大洋物理場の変化に加え、海面水温の低下、海洋循環場の変化、鉄肥沃化の寄与のすべてを合わせても、モデルでは氷期の pCO2atm の低下の半分程度しか説明できないことがわかった (Kobayashi et al., 2015)。
氷期–間氷期の pCO2atm 変動のような千年スケールの海洋炭素循環変動を議論する上では、炭酸塩の堆積・溶解によるフィードバック作用である炭酸塩補償過程を考慮する必要がある。氷期には、深層での溶存無機炭素濃度が増加するため、炭酸塩は溶解しやすくなる。炭酸塩の溶解は二酸化炭素分圧を減少させる方向にはたらき、氷期のpCO2atm の低下にも寄与していた可能性が高いと考えられる。これまでの我々の数値実験では、海底に到達した粒子状有機物や炭酸塩は、海底でただちに溶解すると仮定していたため、炭酸塩補償過程を考慮することができていなかった。炭酸塩補償過程の影響を定量的に評価するためには、これまでの海洋内部での再循環のみを考慮した”クローズドシステム“から、海洋と海洋堆積層との物質のやり取りを陽に考慮する”オープンシステム“へとモデルを切り替える必要がある。現在、そのために、新たに海底堆積物モデルを開発し、それをOGCMと結合して数値実験を行うことで、炭酸塩補償過程を含む”オープンシステム“において、氷期のpCO2atm の低下がどのように説明されるのか、改めて定量的に議論することを目指して研究を進めている。講演では、新たに開発した堆積モデルによる数値実験の結果についても報告したいと考えている。